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自然の中で生きる人びとのリアルを撮影し続ける写真家 芥川仁(あくたがわ・じん)さん

2020年4月14日
 早朝のまだ薄暗い空に、蜜蜂たちの羽音が響き渡る。その「声」に耳を澄ませながら、シャッターを切っていく。北海道から九州地方まで39人の養蜂家を訪ね歩き、撮影した写真集「羽音に聴く 蜜蜂と人間の物語」を、写真家生活50年の節目に出版した。

 事前に取材先に関する知識を得ずに、撮影に臨むのがモットー。「全く白紙のまま現地に行って、驚きながらシャッターを押す。自分の心に触れてくるものを深く掘り下げたい」。蜜蜂の生態や養蜂の仕事も、写真を撮りながら学んだ。「いまでは羽音だけで、養蜂家の性格まで分かるようになった」と笑う。

 宮崎市街地で少年期を過ごし、高校時代から写真にのめり込んだ。18歳で上京し、大学の夜間部に進学。1960年代という「政治の季節」に学生生活を送ったことが、その後の人生を決定づけた。「デモにもカメラを持って行った。社会問題に関心がない人なんて、周りに誰もいなかった」

 大学卒業後はすぐにフリーの写真家を名乗り、「事実をリアルに伝える」というドキュメンタリーの手法にこだわってきた。「現実を表現する。それ以外に写真が持つ力はない」と言い切る。

 熊本県の水俣病患者の元に約40年間、通い続けている。「水俣の人たちの心に渦巻いている言葉にならない気持ちや宇宙観、原始の時代からそこにある輝く風景を写真にしたい」。「水俣のいま」を写真集にするまでは死にきれないと、目に涙を浮かべて語る。愛媛県出身の72歳。

【写真】 自然の中で生きる人びとのリアルを撮影し続ける写真家、芥川仁(あくたがわ・じん)さん

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