畑仕事で日に焼けた腕でギターを抱え、どこか懐かしいメロディーを奏でる。ブルースやアイルランド音楽など土着の「ルーツミュージック」を追求するなかでたどり着いた田舎での暮らし。ギタリストとして活躍していた大阪府から高鍋町に移住して農業を始め、音楽を通じて農村の文化を発信している。
大学に入るまでは「超学歴主義者」だった。「いい学校に行かなければ人生が終わると、本気で思っていた」。第1志望の国立大に落ちたことが転機となり、学生時代は趣味のギターに熱中。そのまま大学を中退し、プロの演奏家になった。
のめり込んだのはルーツミュージックの世界だ。農村生まれの力強い音楽に魅せられるなかで、生活とかけ離れている日本の芸術に危機感を抱くようになった。日々の暮らしに息づく文化を取り戻したいとまちづくりにも関わったが、「経済効果」を重視する都会の論理に限界を感じるように。
「ならば、自分たちで理想の場所を作ってみせよう」と6年前、母親の故郷の高鍋町にバイオリニストの妻と移住した。近くの畑で30種類以上の野菜を育て、自宅横のカフェで手料理を振る舞う。夫婦で定期的に演奏会を開き、音楽仲間を集めたイベントも企画してきた。
「都会ではいろいろなことが細分化されすぎていて、人びとの生活に根っこがなくなっている。民謡などが自然と生まれてくるような豊かで基本的な暮らしを、音楽の力で伝えていきたい」と意気込む。44歳。
【写真】 「ルーツミュージック」を追求し就農したギタリスト、天満俊秀(てんま・としひで)さん