「毎年台風が襲来しブドウ栽培に向かないとされる南九州で、完全無農薬ワインなんて無理だと最初は周囲から大反対されました」。自然農法に徹し、手間をかけたワイン造りを始めて3年。評判を聞きつけ、各地から視察にやって来る。
国連教育科学文化機関(ユネスコ)のエコパークにも登録された、照葉樹林が生い茂る綾町。約1ヘクタールのブドウ園で、葉を食い尽くすカナブンを1匹ずつ取り除き、雑草を抜く手は真っ黒。どこの農家でも使う防カビ剤さえ用いない。
ニュージーランドとドイツで10年近くワイン造りを学んだ。しかし「世界で一番のワインではなく、個性のある地元ならではの酒を造りたい」と、2009年に帰国。欧州品種のブドウ苗約40種類を輸入し、17年に自身の会社「香月ワインズ」を設立した。
白ブドウの皮や種ごと野生酵母で醸す伝統的な製法によるオレンジ色のワインが特徴。素朴なうま味が人気だ。手作業が多く少量生産のため、ボトル1本で1万円近い。「この値段ならフランスに一流の銘柄がある」との辛口評も聞くが、「いずれ安くできれば」と控えめに語る。
新型コロナウイルスの流行で先行きは厳しいが、瀬戸際のワイン造りに共鳴し応援してくれるファンは少なくない。収穫時期になると、大学生や近隣の知り合いが手伝いに駆けつける。
「綾の風土を表現したワインをおいしいと感じてもらえたら」。地元で1人暮らしの46歳。宮崎市出身。