畜産業の一端を担う獣医師として、生産現場の苦労を伝えたい-。「食と農をつなぐ」という作文テーマを見て迷わず応募を決めた。飼料高騰や販売価格の低迷に苦しむ農家の傍らで、都市部を中心に聞こえてくる「外国産牛肉が多く輸入されれば、安くて助かる」との論調。消費者を含めた地域全体で農業を支えていくことの大切さをストレートに訴え、「国産を買うことが農を守ることにつながる」との思いをぶつけた。
2010年口蹄疫発生時には感染拡大防止のため、牛のワクチン接種と殺処分の現場に立ち、農家の悲しむ姿を見るたび胸が締め付けられた。児湯・西都地域はほぼ全頭が殺処分に。一時は仕事が皆無になったが、「ショックを受けると同時に、食と農の関わりに深く思いを巡らせる時間ができた」。作文に込めたメッセージは既にこの時、形になっていた。
牛や馬、豚を飼育する西都市右松の農家に生まれ、獣医の道を選んだ。宮崎大農学部獣医学科を卒業後、千葉、宮崎県内の農業共済勤務を経て1987(昭和62)年に故郷に動物病院を開業。健康な子牛を産ませるため「農家に厳しいことを言うときもある。信頼関係が何よりも大切」 自らの手で「地産地消を実践したい」と、旧知の農家らと新ブランド「都萬(とまん)牛」を開発し、昨年から販売。ヘルシー志向をとらえ、和牛の最大のセールスポイントであるサシ(脂肪交雑)をあえて抑え、赤身肉のおいしさを追求する。同市三宅に妻、長男と3人で暮らす。63歳。
(報道部・小谷実)