昆布で包んだ豆腐を1年間みそに漬け込む。食感と独特の味から「和製チーズ」とも呼ばれる「ねむらせ豆腐」。椎葉村で1社だけが製造・販売していた特産品の事業を、昨年4月に承継した。
元は古くから村に伝わる保存食の手法。同村で伝統食品を製造・販売していた「椎葉山の語り部」の社長だった中瀬浩視さん(故人)が、約20年前に商品として売り出した。
中瀬さんの死後に事業を切り盛りしていた妻の玲奈さんが昨年、従業員の高齢化などから廃業を決意。店の片付けをしていた。そこを偶然通りかかった。「僕に継がせてほしいとダメ元で言ったら『継いでくれるの?』と話が進んだ」。すぐに工場で製法を学び、仕込みを始めた。事業承継後、初めての商品は今年2月から店頭に並んでいる。人気で常に品薄状態だ。
「魅力的で多くの人に愛されている商品。自分が引き継いだことで、多くの人が喜んでくれるのはありがたい」と笑顔を見せる。
同村生まれ。県外の大学を経て就職した会社を約3年でやめ、2013年にUターン。建設業の父が始めたチョウザメの養殖を手伝い、キャビア生産にこぎ着けた。「生産や販売の課程で、『椎葉の環境があるからできる』と褒められ、それまで田舎だからと嫌いだった古里が好きになった」
「将来的には、ねむらせ豆腐の生産を拡大して、UIターンの人々の雇用の場をつくりたい。椎葉には魅力的な仕事があると訴えたい」と意欲旺盛。同村下福良に父母と妻、長女、次女と暮らす。33歳。