奨学金の恩恵なしに研究者への道はなかった。高知大在学中の1995年、神戸市の実家が阪神淡路大震災に被災。神戸大大学院に進んだものの、経済状況が悪化して奨学金頼りの生活が続いた。師事した教育行政学の第一人者、三上和夫さんも苦学の人。「アルバイトするな、奨学金を借りて本を読みまくれ」。言葉通り、膨大な課題をこなし研究に没頭した。修了時の負債額は約1千万円。書籍代と学会費に消えた。
「周囲から『神戸大の歩く不良債権』とからかわれていた。ただ僕自身は楽観的で、何とかなるだろう、不良債権化せずいつか恩返しできるだろうと静かに笑っていた」。28歳から返済し続け、46歳になった今、残額がようやく100万円に減った。
自身の経験や学習支援ボランティア活動から、子どもの貧困対策には人並みならぬ思いを持つ。新型コロナウイルス禍を受け学生の困窮が顕在化。通信格差が最も分かりやすく、無料通信ゾーンを求めてさまよう”通信難民”が増加しているという。
アドバイザーを務めるNPO法人Swing―Byの要請を受け、「奨学生への指導手引」と題したブックレットを今回出版した。「困窮する児童生徒への支援がますます重要。教育と福祉が連携し、適切な指導ができるように」との願いを込めた。
物腰は柔らかで物静かだが、関西人ならではのユーモアがにじむ。学生時代はキャンパス内の野草や食用キノコにやたら詳しかった―など楽しい極貧エピソードには事欠かず、「高い生存能力」を自負する。宮崎市に家族4人で暮らす。