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第27回会合 未知への対処法問う

2011年2月18日
 宮崎日日新聞の報道の在り方を検証する「宮日報道と読者委員会」(委員長・青木賢児メディキット県民文化センター館長、4人)の第27回会合は10日、宮崎市の宮日会館であった。新燃岳噴火や環太平洋連携協定(TPP)交渉参加問題をめぐる報道をテーマに、青木委員長と有馬晋作(宮崎公立大教授)、谷口二郎(産婦人科医)、成見暁子(弁護士)委員の4人が本紙の編集担当部長らと意見を交わした。(司会 編集局次長・田代学)

■新燃岳噴火/被災者の不安前面に/県民元気づける記事必要

 ―新燃岳噴火ではすぐに取材前線本部を高原町に置き、報道、写真部が泊まり込んだ。小林、えびの支局、都城支社も取材に出ている。報道の初動をどう見たか。

 <青木委員長> 1月27、28日付の紙面は歴史に残るような写真が多かった。災害は見える部分の報道が先に行く。特に火山は目に見えてスケールが大きく衝撃が大きい。知りたいところをよく追いかけて写真が撮られていた。ただ解説や科学的分析など、見えない部分の報道が後手後手だった。また目に見えない部分で言えば、被災者の恐怖や不安が伝わらなかった。映像に映らない気持ちをありありと描き出すのは記者の筆の力だ。

 <有馬委員> 報道は必要に応じて変化してきた。最初は噴火した事実や被害。噴火が長引くと、灰を水で流していいかや航空便の欠航など暮らしの情報へ。分かりやすくする努力を感じる。高原町の避難勧告については、過剰反応という一部の声もあり、町長は苦しい中での判断だったと思う。生命にかかわる首長の悩みも伝えてもらいたい。7日付3面の避難基準がないことを書いた記事は行政にはありがたいと思う。全体的にはいろんな情報がいろんなところに目まぐるしく掲載されていて、逆に全体像を把握しにくい。時々総括記事を出し、県民も冷静に振り返れる場を設けた方がいいのでは。

 <谷口委員> 宮日は当然これがトップニュースだが、ほかの新聞では扱いがだんだん小さくなってきている。県外にいる人は、全国版に載らないので分からないという。ぜひとも宮日に頑張ってほしい。1面の風向き予想は細かくていいが、少し分かりにくい。矢印で示したらどうか。また洗車の仕方を紹介した記事は役立った。新聞はそのように、リアルタイムの情報より、どうしたらいいんだろうと読者が思うことを伝える義務がある。避難所の様子を見るとお年寄りが多い。お年寄りも分かるように、生活に関する情報を大きい文字で表にしてもらいたい。

 <成見委員> 県民がこれまで経験のない事態に戸惑っている中で、それに対応するための生活情報が充実していてありがたい。掃除の方法や悪質業者の問題など、細かい情報をよく拾っている。現場では住民に密着してしっかり報道をしている。避難生活をしながら受験に合格した人や土石流を警戒して川の透明度を調べる職員の写真は希望があり、頼もしかった。噴火を止めることはできず、できるだけ被害を食い止め、被害が生じたときにどう原状回復するかで人間の知恵、連携が試される。例えば避難基準がない点など、足りないところを工夫しながら災害に備える人間の営みをこれからも知らせてもらいたい。噴火を経験している他県の例を知りたい。あとは噴火はなぜ起こっているのか、土石流や空振はどう発生するのか、的確な科学的情報が大事。

 <吉岡報道部次長> 火山に関する報道についてまったく専門記者がいなかった。今回急きょ取材班を仕立て、まず識者を探すところから始めた。

 ―これからの報道にほしい部分は。

 <成見委員> 今後長期化すれば、生活面、精神的に疲労がたまる。そこをどうケアするか。農産物や商工業にまで被害が広がってくるので、どこまで被害補償するのか。安心で安全な暮らしに戻るまで、取材してほしい。

 <谷口委員> 今後は具体的にお金の問題やボランティアの話が必要だと思う。県全体の経済復興も考えていかなくてはならない。

 <有馬委員> 県外の自治体の協力など、県民を元気づける記事が必要。また今後、県は国へ支援を働き掛けなくてはならない。他県の被災事例で国のこれまでの支援策を紹介すれば、本県の今後の交渉でプラスになる。

 <青木委員長> そもそも自然災害に人間の知恵は及ばない。雲仙普賢岳の火砕流では、絶対に安全といわれるところにカメラを据えていたカメラマンが亡くなった。どれだけ危険を予測しても結果は全然違っていた。この教訓は絶対に知っておくべきだ。予想がつかないということが分かるだけでも大事なこと。

 【新燃岳噴火】 1月26日に噴火、警戒レベルが「3」(入山規制)に引き上げられた。高原町は火砕流の危険が高まったとして同30日深夜から避難勧告を発令(今月15日までにすべて解除)。爆発的噴火は16日までに11回あり、周辺市町村には噴石などの被害が出ている。本紙は日々の被害状況のほか、航空便欠航などの生活情報を第3社会面に、灰や避難生活対策などをくらし面に掲載するなどしている。


■TPP/判断へ情報提供して/地方の立場堂々と論陣を

 ―環太平洋連携協定(TPP)の問題は情報が少ない中、十分な判断材料を読者に示すことを念頭に紙面づくりを進めている。これまでの報道についての意見は。

 <青木委員長> 極めて唐突な問題提起で、社会的に知識が不足している中で議論が行われている。特に農業が大きな打撃を受けるということが中心になり、反対の世論形成が急速に行われた。紙面を見ても農業の損害などの試算が大きな見出しで出る。しかしTPPはそのほかの多くの産業、国の未来にかかわる内容がたくさん含まれている。まず報道する側が知識を十分に持ち、読者に提供してほしい。課題を共有した上で、日本はどう対処するのかを議論すべきだ。振り出しに戻った方がいい。宮崎は確かに農業が基盤だからそのことに敏感になるのは分かるが、やはり国の運命は地域社会だけで決めるものではないと思う。

 <有馬委員> 世論調査は考えさせられた。県民の意見は農業県にもかかわらず大きく分かれていること、周知が不足していることを浮き彫りにした。初期の報道としては有意義だった。農業県の新聞としてどう報道するか。地方紙の宮日がいくら論じても都市部に届くかという問題がある。地方紙合同など、全国に発信するような企画記事が今後必要だろう。また賛成、反対の主張をどう報道するか。単純に双方の主張を並べても、どこに判断基準があるか分からない。非常に難しいと思う。

 <谷口委員> 全然知らないことがポッと出てきた感じ。宮崎は農業県だから農業からの視点が当然多いと思う。宮日も参加反対の考えが基本にあって、記事が続いている感じがする。その考え方は、例えば東京と宮崎では差があるのではないか。物が安くなるのなら東京の人はほとんど賛成するかもしれない。ただ宮崎は農業の人が多いからそういう人の意見を強く出していいと思う。読者としてはメリットがどこにあるのかをもっと出してもらうと判断材料になる。

 <成見委員> 農業だけでなく金融や労働などあらゆる分野で影響が出てくる問題。情報と国民的議論が不可欠。世論調査によると県民ですら半数近くが関心がない。そもそもTPPが何かということが分かっていない人が多い。小さな用語解説はあるが、なぜこの問題が出てきたのかは分からない。メリット、デメリットを分かりやすく伝えてほしい。反対側は具体的な被害額を出しているが、参加の必要があるという側の根拠も判断材料として知りたい。地元紙としては評論家的ではなく、堂々と論陣を張っていいと思う。

 <森報道部長> 図解を駆使しながら日本や宮崎にどう影響をもたらすのかを分かりやすく伝える記事に努めたい。ある程度社内で議論した上で、立場を固めて連載企画などをしたい。

 【環太平洋連携協定(TPP)】 貿易や投資の完全自由化を目指すTPPは、チリやブルネイなど4カ国による協定に、米国、オーストラリアなど5カ国を加えた計9カ国が、今年11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)で妥結を目指し交渉中。昨年10月、菅首相が日本の参加検討を表明。これに農業界が反発。参加を訴える産業界との対立が先鋭化した。本紙ではこれまでに影響額の試算や、県内外の識者の意見を聞く特集などを掲載している。昨年12月22日付の県民世論調査では、「反対」28・9%、「賛成」20・4%と賛否が分かれ、「知らない」21・3%、「どちらでもよい」25・2%と無関心さも表れた。

【写真】新燃岳やTPP報道について意見を交わした「宮日報道と読者委員会」=10日、宮崎市・宮日会館


本社側出席者
 代表取締役社長・町川安久▽常務取締役論説委員会委員長・三好正二▽取締役編集局長・大重好弘▽編集局次長・田代学▽報道部長・森耕一郎▽経済部長・見山輝朗▽文化部長・末崎和彦▽運動部長・外前田孝▽地域情報部長・坂元陽介▽写真部長・崎向秀次▽報道部次長・吉岡智子、戸高大輔▽読者相談室長・西木戸賢治