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第28回会合 活字の使命果たす

2011年7月7日
 宮崎日日新聞の報道の在り方を検証する「宮日報道と読者委員会」(委員長・青木賢児メディキット県民文化センター館長、4人)の第28回会合は、宮崎市の宮日会館で6月30日あった。東日本大震災の関連報道と本紙が4月から拡充している子ども向け紙面をテーマに、青木委員長と有馬晋作委員(宮崎公立大教授)、谷口二郎委員(産婦人科医)、成見暁子委員(弁護士)の4人が本紙の編集担当部長らと意見を交換した。(司会 編集局次長・田代学)

■東日本大震災/解説、検証役割重く/本県へ教訓生かす報道を

 ―東日本大震災については、号外発行や地域面縮小による特別紙面などで報道してきた。読者が必要とする情報を十分届けられていたか。

 <青木委員長> 千年に一度の大地震と原発事故という複合災害に対し、どうやって紙面を整理し、読者に問題点を伝えていくかということに苦労をしただろう。また、テレビと活字メディアの役割、ジャーナリズムの在り方についても気付かされた。日に日に被害が大きくなる災害報道で新聞はリアルタイムで追いかける電波にかなわないが、記録性、解説では電波で表現できない事をやった。結果としてそれぞれの役回りを果たしているように感じられた。

 <有馬委員> テレビ報道は一斉に同じ事の繰り返しで精神的にきつかったが、新聞は一覧性、総合力があり落ち着いて見ることができた。現地ではなく県内の防災が大丈夫か、との記事が出ていたが、県民にとって大切な情報だ。津波への対応など防災に関する報道は、同じ内容でも何度もやったほうがいい。議会で新聞を参考に質問する議員もいるだろうし、行政の自己点検につながる。被災地で各分野において支援に当たった県民のインタビュー記事(連載「被災地は今」)は地元紙ならではの良い視点。同じ分野で本県だったらどういう不都合が生じるか警告になる。

 <谷口委員> 残念ながらテレビと新聞で差がついた。新聞は1日1回の報道で画面がなく、圧倒的に負けた。新聞の最初の一報について印象がない。ただ、新聞写真では画像より胸を打つものがあるなどメディアそれぞれにいいところはある。また、宮崎から現地に行って支援活動に当たった人をより具体的に伝えてほしかった。最初は町の被害や亡くなった人の報道が中心だったが、今は生活と原発にクローズアップされている。かなり長いスパンで見ていかなければならない。被災地出身の県民に古里への思いを語ってもらうなど、東北と宮崎の接点を伝えてほしい。

 <成見委員> 原発事故による制約などで現地の事がすべて載せられない葛藤があっただろうが、写真の力もあってリアルに伝えられていた。本県は過去に津波被害を経験している。津波の威力や時速、高波との違い、市街地でどこまで浸水するかなど地図などで引き続き分かりやすく教えてほしい。国が説明責任を果たしていないとの指摘もあり、国民に正確な情報を伝える事はメディアの重要な使命。テレビで学者が原発の安全性を強調し「あおるな」という抑制ムードがある中で、宮日は最初から原発事故の深刻さを伝え、報道姿勢の違いが際立っていた。

 <森報道部長> 「被災地は今」の連載開始が遅かったのは反省点。シリーズ「気仙沼よ」は、カツオ漁を通じて縁の深い宮城県気仙沼市の発生から復興までの様子を定点観測的に伝える狙いがある。

 ―読者は地元紙のこれからの報道に何を求めているか。

 <青木委員長> 多種、異質な問題を全部網羅するのは限られた紙面では不可能。テーマを限定し、優先順位をつけるのが勝負どころだ。漏れなく報道したいというのは分かるが、日向灘で起きうる地震や原発事故による放射能の影響がどれほどの範囲に及ぶかなど、県民が知るべきテーマを中心に追い掛けるべきだ。

 <有馬委員> 今起きている報道で手いっぱいだろうが、定点観測をしている気仙沼などで、復興のプロセスにおいて自治体が果たした役目を冷静に報道してほしい。県民、議会もそれを見て検証できる。

 <谷口委員> 地震、原発事故の影響で宮崎に来る妊婦らをバックアップするシステムづくりや、電力問題対策としてのクールビズ徹底について啓発キャンペーンをしてほしい。津波に集中しがちな視点を地震に戻すことも必要だ。

 <成見委員> 弔慰金支払いで救済されない被災者もいるなど法律や制度上の問題が出ている。本県への避難者にも情報提供してほしい。また、国や行政の目線でなく、一人一人の人権を基点にした復興がなされているかもチェックしてもらいたい。

 <町川社長> ハザードマップの情報をすべての住民に伝えるのは活字メディアの責任。東北の地方紙と記事交換をするなど被災地の視点に立った紙面も勉強していきたい。

 【東日本大震災】 3月11日午後2時46分、宮城県沖約130キロを震源に国内観測史上最大規模の巨大地震(マグニチュード9・0)が発生。太平洋沿岸に大津波が押し寄せ、甚大な被害をもたらした。東京電力福島第1原発では原子炉の冷却が不能になり、放射性物質を放出する事故が発生、深刻な事態を招いている。警察庁のまとめ(6月30日時点)によると、死者1万5511人、行方不明者7189人。内閣府推計の被害総額は16兆9千億円。


■子ども向け紙面/「考えさせる」視点必要/俳句や詩に接する好機

 ―4月から子ども向け紙面を見直し、授業や家庭で使ってもらえるように親しみやすい紙面作りを意識している。

 <青木委員長> 子どもたちの活字離れが教育で大きな問題になっている。様式化している新聞の文体も、子どもが親しめるようにすることが求められる。大人向けについても最近、専門用語や複雑な話が多く、書き手には分かりやすく伝えるセンスが必要だ。子ども向けのページを作ることは大賛成。学校で教えないようなことも載っている。時々のニュースに積極的に接して視野を広げることは大切。子どもの詩や俳句を掲載しているのもいい。自分の心を文字で伝える訓練が学校教育の中で十分ではなく、俳句や詩にもっと接するチャンスを増やすべきだと思っていた。

 <有馬委員> 実際に子どもが見て興味を持っているかどうか、学校と連携して検証することで、ほかの地方紙とは違う宮日独自の紙面を作ってはどうか。また、新聞のニュースは専門用語があり難しいという大学生もいる。子ども向けに作ったニュース解説をアレンジして大学生向けに使ってもいい。新聞を本気で読むようになるのは、大学生が就職活動で必要になってから。図書館でしっかり毎日読むことからスタートする。県内の就職状況や県内企業人が求める社員像など、大学生向けの紙面を出してもらえれば、学生が情報収集を機に定期購読するきっかけになる。

 <谷口委員> 若者はテレビやインターネットのみでほとんど新聞を読まず、新聞の存在が10、20年後にあるかどうかは分からない。そうならないためにも、子どものころから新聞に興味を持つようにしなくてはならない。では、どうすれば興味を持つのか。投稿で自分の名前が載ればうれしいし、「また載っているかも」と期待して見るようになるものだ。それによって「新聞はこんなに面白いんだ」という導入につながる。

 <成見委員> 子ども向けのページと対抗面の親向けのページが、テーマの拾い方などよくできている。子育ての工夫や子どもに読ませたい本など、子どもを持つ親にとって非常に面白いページだ。子どものページでは「ニュースなぜなに」などでリビア攻撃といった大人のニュースとしても非常に難しいテーマや、賛否両論あるリニア建設について扱っている。子どもは影響を受けやすいので、「いろんな考え方があるよ」「調べよう」「話し合ってみよう」というように、問題提起して自分で考えさせるような視点での記事にした方がいい。

 <中川文化部次長> 子どもが手に取って開きたくなる新聞を目指している。参加型の企画も始め、その反響から読者の年齢層もつかめてきている。それらを踏まえ、充実した紙面をつくっていきたい。

 【子ども向け紙面の拡充】 新学習指導要領の改定で本年度から学校教育にNIE(教育に新聞を)が取り入れられていることを受け、4月から子ども向け企画を集めた特集面「キッズじゃーなる」の新設や「学園詩壇」の創設など、NIE紙面をさらに充実させた。読者からの投書を紹介する窓面では、月曜日付をNIE紙面として子どもたちの投稿だけを掲載するようにしている。

【写真】東日本大震災報道や教育面拡充について意見を交わした「宮日報道と読者委員会」=30日午後、宮日会館

本社側出席者
 代表取締役社長・町川安久▽常務取締役論説委員会委員長・三好正二▽取締役編集局長・大重好弘▽編集局次長・田代学▽報道部長・森耕一郎▽経済部長・鳥越真也▽文化部長・末崎和彦▽運動部長・坂元陽介▽地域情報部長・外前田孝▽写真部長・崎向秀次▽報道部次長・戸高大輔▽文化部次長・中川美香▽読者室長・西木戸賢治