(2011年10月26日付)
宮崎日日新聞の報道の在り方を検証する「宮日報道と読者委員会」(委員長・青木賢児メディキット県民文化センター館長、4人)の第29回会合は20日、宮崎市の宮日会館で開いた。巨大地震を想定し、本県を襲う津波シミュレーションなどを交えた連載「日向灘地震に備える 想定M9」をはじめとする震災報道がテーマ。青木委員長と有馬晋作委員(宮崎公立大教授)、谷口二郎委員(産婦人科医)、成見暁子委員(弁護士)の4人が、本紙編集担当部長らと意見交換した。(司会 編集局次長・田代学)
■連載「想定M9」/緊張感あり読み応え/地域防災にも切り込んで
―シリーズ連載「日向灘地震に備える 想定M9」は、巨大地震発生時に本県沿岸部を襲う津波の発生シミュレーションを1回目で紹介した。
<青木委員長> 本当にこのシミュレーション通りなのか。東日本大震災で、どんな想定も疑わしいと思うようになった。今は大津波が次にどこを襲うかということが国民の最大関心事。東海・東南海・南海の3連動地震に日向灘を加えた4連動が予想されていると聞き、無常観を感じている。気を取り直してどういうことに取り組むかが大事で、今がそのターニングポイントだ。
<有馬委員> 非常に力が入っているが、科学的な記事で読むのが大変だったという印象。分かりやすく書くことが課題だ。見出しはインパクトがあり、読者の興味を引くという意味での工夫がみられた。事前に警告することも大切で、そういう記事は繰り返し掲載してもいい。読ませることは難しいだろうが、努力を重ね記事にしてほしい。
<谷口委員> 見出しに「5~6メートル津波も」とあるが、「この程度の津波しか来ない」と受け取ることもできる。震災でも津波予報を聞いて「大丈夫」と考え、命を落とした方もいた。具体的に予想される津波の高さを「メートル」で表示するのはいただけない。
<成見委員> 科学的根拠に基づいて紹介しており、「宮崎でも起こりうる」と実感できる連載だった。マグニチュード(M)9クラスの地震が起きた際の津波の広がり方について、グラフィックや図解を交え分かりやすく掲載している。想定M9というタイトルもインパクトがあり、いい意味で読者への警告となった。日向灘が地震の活動期に間もなく突入するということにも触れており、緊張感を持って読むことができた。
<森報道部長> 読者への注意喚起と防災意識の向上を図ることが狙い。巨大地震発生時に病院や避難所で生じる諸課題の想定など、(大震災から1年の)来年3月11日までは連載を続けるつもりだ。
<有馬委員> 地域のコミュニティーなど横のつながりを紹介する特集も必要だ。今後の展開に期待したい。
<青木委員長> 実際にM9が起こると宮崎空港はどうなるのか。陸路が使えないと支援物資やボランティアの受け入れは空路頼みになる。現実問題として、空港の防災計画にも切り込まなければならない。都市部や工業地帯、農村がどういう問題を抱えているかも知りたいところだ。
【日向灘地震に備える 想定M9】 本県に影響を及ぼす巨大地震の発生を想定した連載。9月13日付からの第1部では、日向灘地震のほかに東海・東南海・南海地震の震源域に日向灘を加えた4連動地震などの脅威を5回にわたり報じた。1回目は宮崎大と同大学内のベンチャー企業「地震工学研究開発センター」がはじき出した津波シミュレーションについて、特集面との2本立てで紹介。グラフィックを取り入れ、巨大津波が本県沿岸部を襲う様子を予想した。
■震災関連/制度課題の提案必要/福島原発、報道が過敏に
―震災報道について思うことを語ってほしい。
<成見委員> 人と人との交流を通じて制度的な課題を指摘し、(記事として)提案していくことが大切だ。とてつもない被害をもたらした福島第1原発事故は、世界のエネルギー政策にもかかわる問題。国民や県民はどういう社会を構築するか模索している段階だろう。原発についてはリスクを含め、きちんと情報を伝えることが肝要だ。
<谷口委員> 過敏な反応をしているように映る。「セシウム牛は要らない」発言に対する報道もそうだ。「福島県産の牛は要らない」とは言っていないのに「(マスコミは)福島差別だ」と報じる。言葉(の真意)を曲げて伝えていた。また、原発問題を報道することも大事だ。川内原発(鹿児島県薩摩川内市)は本県からそう遠くない場所にある。身近な問題と感じることができるので、九州内の原発を取材するのもいい。
<有馬委員> 国、県、市町村に役割の違いがあるのか、被災地では行政のスピード感がない。財政基盤の弱い市町村には不満もあるだろう。規制や法令でがんじがらめなのかもしれないし、動けないという根本的な問題を抱えているのかもしれない。そういう点を発信してはどうか。大震災は風化させないことが大事。視聴率に左右されない新聞にはその役割が果たせると期待している。
<青木委員長> (日本が)福島第1原発事故をどう終息させるのか、世界が固唾(かたず)をのんで見守っている。逃れることのできない人類共通の課題だが、本県ではこの論議がない。世界が注目している議論に宮崎の人が加わる体験を持つことは、社会のありようを考える上で避けては通れない。本県なりの啓発キャンペーンがあってもいい。
<有馬委員> (8月30日付全面広告の)宮崎市標高マップは良かった。「自分の生活サイクルに合わせて避難できる場所や避難経路を決めておきましょう」とあるが、ストーリー性を加えて暮らし面で掲載することもできる。
<成見委員< こういうマップがあるといい、と思っていた。自宅や働いている場所が確認でき分かりやすかった。巨大津波が襲ってきたら逃げるしかない。避難経路の確認など、各自で日ごろから考えておくことに尽きる。
■ルポ「気仙沼よ」/一歩踏み込み説得力/人情、雰囲気表現して
―(大震災から半年後に合わせた)「気仙沼よ」は、7回にわたり宮城県気仙沼市からルポを配信した。
<谷口委員> 九州と東北ではどうしても距離があり、震災関連のニュースが薄くなる。住民生活に直接の関わりがないからだ。そんな中、この連載はカツオ船や飲み屋などから(本県と現地との)つながりを探していた。レイアウトについては注文がある。原稿自体を四角に囲むと読みやすくなるはずだ。また、記者の署名が1回だけ欠落していた。誰がこの記事を書いたのか、というのは大事なこと。読者との接点ができる。
<青木委員長> カツオ漁を通して被災地との縁をたどり、一歩踏み込んで取材している。仮設住宅や造船所などを訪ね歩いてのリポートは説得力があり興味をかき立てられた。ただ、もう少し被災者の心のひだを描いてほしかった。感情を追跡する表現がなされていたら、さらに被災地を身近に感じることができ、読者の共感を呼んだのではないか。被災者の心の内を文学的に表現してほしかった。企画としてはいい。
<戸高報道部次長> 指摘を今後の取材に生かしたい。三陸沖のカツオ漁は11月で終わる。本県のカツオ漁がどのような影響を受けたのか、餌や燃料不足のほかに水揚げ港の分散化の問題など、今シーズンを総括した記事を書く予定にしている。
<大重編集局長> 震災が発生してから数カ月でさっと退くのではなく、丹念に取材し継続して記事を出すことに意義がある。今後は被災地の生臭さやほこりまみれの乾燥した世界、色を失っている様子も表現していきたい。
<青木委員長> 雰囲気や人情の機微を表現できるのは文章に尽きる。優れた文章は1枚の絵や映像よりもはるかに人を感動させる力を持っている。新聞記者には特に文章力を磨いてもらいたい。
<町川社長> 定点観測を続けることが大事で、地方に共通する課題が浮かび上がる。今後もいろいろな記事を出すので期待してほしい。
【気仙沼よ】 日南市のカツオ一本釣り漁師らと東日本大震災の被災地・宮城県気仙沼市とのつながりを描くシリーズ。これまでに現地ルポや水揚げを間近に控えた同市の現状などを継続的に掲載、カツオ船乗船ルポも記事化している。大震災から半年に合わせたルポでは、記者が魚市場や問屋のほかに飲食店や銭湯などの周辺産業を取材。本県漁師との深い絆や復興の遅れに対する不安などを9月9日付から7回にわたり紹介した。
【写真】震災関連の特集や企画について意見を交換した「宮日報道と読者委員会」=20日、宮崎市・宮日会館
本社側出席者
代表取締役社長・町川安久▽常務取締役論説委員会委員長・三好正二▽取締役編集局長・大重好弘▽編集局次長・田代学▽報道部長・森耕一郎▽経済部長・鳥越真也▽文化部長・末崎和彦▽運動部長・坂元陽介▽地域情報部長・外前田孝▽写真部長・崎向秀次▽報道部次長・戸高大輔▽同・中山貴史▽読者室長・西木戸賢治▽報道部員・川路善彦