(2012年2月16日付)
宮崎日日新聞の報道の在り方を検証する「宮日報道と読者委員会」(委員長・青木賢児メディキット県民文化センター館長、4人)の第30回会合は9日、宮崎市の宮日会館で開いた。テーマは「ローカル・ジャーナリズム」。青木委員長と有馬晋作委員(宮崎公立大教授)、谷口二郎委員(産婦人科医)、成見暁子委員(弁護士)の4人が、委員を務めたこの2年間の本紙報道を総括し、地元紙が果たすべき役割などについて意見を交わした。(司会 編集局次長・田代学)
■ローカル・ジャーナリズム/県民視点で検証必要/九州の動きもっと詳しく
―地域に根ざすローカル・ジャーナリズムの役割が増している。
<青木委員長> 日本では米国などと異なり、全国紙が主流となっている。明治以降、国家が中央集権的に成り立ったからだろう。地方よりも国の情報が求められたため、全国紙が発達した。そうした歴史的背景がある中で、宮日は地域に密着している新聞の一つ。これからは情報の地方分権化が進み、ローカル・ジャーナリズムが主流になる可能性が高い。これまで培った経験を基に、新しい報道にチャレンジしてもらいたい。
―以前、記者の文章力を磨くよう指摘をいただいた。
<青木委員長> ほかのメディアと違い、目に見えないものを文章で表現するのが新聞だからだ。テレビの登場以来、目に見えないものへの価値が低くなった。映像本位のジャーナリズムには問題がある。今のジャーナリズムは「現在の肥大」と指摘されている。バランスよく「現在」「過去」「未来」を報じる必要がある。新聞の復権が待たれる。
―本紙報道は地域に根差しているか。
<有馬委員> 新聞の大きな役割は「情報提供」と「問題提起」の二つ。東日本大震災では「絆」が注目されたが、宮日の口蹄疫報道はそれを先取りし、地域の絆を重視して情報を提供し、問題を提起していた。地域密着は地方紙の原点。読者にもメリットがある。
―物足りない点はないか。
<有馬委員> 隣県をはじめ九州の情報が分からない。九州新幹線が開通して西九州は動きが活発になっているが、その躍動感が伝わってこない。道州制を見据えると、九州の情報を重視した紙面づくりが求められる。地域の課題を明らかにして、自分たちで考えるきっかけになる記事を発信してほしい。
<大重編集局長> 九州の各地方紙とは良好な関係を築いているので、可能だと思う。ただ、その方向性は一致しているが、音頭を取る社がなかった。今後は連動する形で合同企画や九州地域版の充実を図りたい。
―委員には生活者目線での指摘を数多くいただいた。
<谷口委員> 各地方紙にそれぞれの特徴がある。宮日は地域版でふんだんに話題を提供している。決して話題が豊富ではない中、記者も苦労しているのだろう。都市部の生活では薄くなりがちな、人とのつながりを大切にしている証しだ。要望したいのは、記者の署名を載せることだ。投書する側には氏名を求めるのに、記者が名乗らないのは疑問。署名があれば読者も意見が言える。共同通信との違いも分かるように工夫した方がいい。
<大重編集局長> 記者の身の安全を確保する必要がある場合や、情報源が特定される恐れがある場合は匿名としている。一部は署名記事としている。署名・匿名の使い分けについては、これまでも論議してきたが、さらに深めたい。
<成見委員> 2年前に帰郷してから宮日を読むようになったが、地域版が充実していることに驚いた。地方と全国、世界のニュースを1紙で手に入れることができる。伝える事実がどういう意味を持っているのか、解説や論評を加えるのが新聞の役割。(国や県が流す)情報が本当に正しいのかを見抜き、真実を伝えなければならない。読者の知る権利に貢献することが最優先だ。
―その中で地方紙ができることは。
<成見委員> 遠い国で起きたことでも必ず本県とつながりがある。県民の暮らしや生活感覚に立脚した報道を望んでいる。例えば環太平洋連携協定(TPP)。農林水産業を基幹産業とし、県民所得が低い本県にどのような影響を与えるか、という視点で検証する必要がある。そういう意味では、9日付から始まった1面連載の「自由化の波紋」を興味深く読んだ。自由貿易を優先する韓国の今後の動向には関心がある。
<森報道部長> 昨年11月に野田佳彦首相がTPP交渉への参加方針を表明した。決着がつくまでは粘り強く、多角的な視点で本質に迫っていこうと考えている。本紙の独自性を出しながら、貿易自由化が地域にもたらす影響を検証していく。
■委員長総括/記事マンネリ防げ/記者の署名入りが原則
―委員会では新聞報道の在り方について議論してきた。委員長に総括してほしい。
<青木委員長>情報環境が大きく変わる中で、新聞が存在感や意義をどう示すことができるかが勝負だ。ネット社会でグローバル化に対応することが本当の意味での進歩なのか、考え直した方がいい。
ジャーナリズムは読者の関心に応えることが肝要で、人の関心領域は決まっている。話題が「自分」「家族」「地域」「国」「世界」となるにつれて関心は薄くなる。幸い、地方紙は(読者と互いに)顔が見えるところで仕事をしている。「地域は変化に乏しい」と思いがちだが、そうではないことをもう一度確認してほしい。
常に気を付けなければならないのが、ニュースのマンネリ化。記者が限られたエリアの中で「面白いネタはないか」と目を光らせても、なかなか見当たらないことがある。そうなると、カレンダーニュース(日付や季節に合わせた記事)に陥る。ぬるま湯的な取材を続けると、マンネリの輪が広がるだけだ。
そこから脱皮するためには、ジャーナリストとしてのセンスを磨くしかない。耳を澄ませて切磋琢磨(せっさたくま)し、日常の風景を違った角度から切り取る努力を続けなければならない。
地方紙の役割は、第一に情報収集で、第二が伝えること。三つ目は報道したことの意味を読者に理解させることだ。そのためにも、記事は原則、記者の署名入りであるべきだと考える。高いレベルの見識と判断力が求められているからだ。
記録伝承という機能も重要だ。昨年12月に発刊した「ドキュメント口蹄疫」は素晴らしかった。分かりやすいし、批判精神もあふれている。まっとうなジャーナリズムだという印象を受けた。丁寧に伝承する役割をこれからも果たしてほしい。
■今後の本紙/読者ニーズ集約を/地に足着けた取材望む
―この2年間で気付いた点を教えてほしい。
<有馬委員> 東国原前知事をめぐる報道は盛り上がった。一方、河野知事が就任してからはおとなしい。前知事が積み残した課題は多いと思うので、それを検証するのが地方紙の役目。選挙報道についても言いたいことがある。世論誘導があってはいけないが、争点をつくり上げる報道姿勢が大切だ。解散総選挙が取り沙汰されている。本県選出国会議員の動きがあまり出ていないので、きちんと紹介してほしい。
<谷口委員> いかに宮日を読んでもらえるか、ということを念頭に紙面を作る姿勢も大事だろう。若い人はほとんど新聞を購読しない時代。読者のニーズを最大公約数的に集約し、アンテナを張り巡らせてニュースを発見する意識を心掛けるべきだ。
―読者との距離を縮める方策はあるか。
<成見委員> 県民が幸せになるための報道をすること。ただ、読者の興味に応えるだけではいけない。地に足を着けて取材活動を続け、権力に対してはきちんとチェックして報道してほしい。
―ほかには。
<成見委員> 宮崎市内の自宅で家族3人を殺害したとして、殺人罪などに問われた男性被告の裁判員裁判が2010年12月に宮崎地裁であった(福岡高裁宮崎支部に控訴中)。裁判員制度導入のきっかけは市民感覚を取り入れることだった。死刑が前提のように捉えられていたように感じたが、死刑制度は国際的に廃止の流れでもあるし、日弁連もその方向で取りまとめる。裁判員制度の検証に加え、死刑についての見解を掲載してもいい。
【写真】この2年間の本紙報道を総括し、ローカル・ジャーナリズムの役割などについて意見を交わした「宮日報道と読者委員会」=9日午後、宮日会館
本社側出席者
代表取締役社長・町川安久▽常務取締役論説委員会委員長・三好正二▽取締役編集局長・大重好弘▽編集局次長・田代学▽報道部長・森耕一郎▽経済部長・鳥越眞也▽文化部長・末崎和彦▽運動部長・坂元陽介▽地域情報部長・外前田孝▽写真部長・崎向秀次▽報道部次長・吉岡智子、小川祐司、戸高大輔、中山貴史▽読者室長・西木戸賢治