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第31回会合 判断材料提示して

2012年7月7日
(2012年7月6日付)

 宮崎日日新聞の報道の在り方を検証する「宮日報道と読者委員会」(委員長・青木賢児メディキット県民文化センター理事長、3人)の第31回会合は6月29日、宮崎市の宮日会館であった。東日本大震災で発生したがれきの広域処理をめぐる報道と、本紙が2月から毎月1回掲載しているみやにち防災特集をテーマに、青木委員長と有馬晋作(宮崎公立大教授)、丸山亜子(宮崎大准教授)委員の3人が本紙の編集担当部長らと意見を交わした。(司会 編集局次長・田代学)



■震災がれき広域処理/立体的報道足りず/結論への過程も必要

 ―震災がれきの受け入れについては県民の間でも賛否がある。これまでの報道の内容、量が読者の判断材料として十分であったか、意見を聞かせてほしい。

 <青木委員長> がれきの問題は誰にとっても本当に悩ましい。高い関心を持たれているが、期待するほどの情報はなかったと思う。多くの人が「支援したいから受け入れる」「危険だから受け入れない」という両面の気持ちを持ちながら問題の推移を眺めていた。がれきの焼却灰の処理基準の数値が「ダブルスタンダードだ」という議論なども含め、さまざまな場所や人を取材して立体的に報道してほしかった。

 なぜこんなにはっきりと賛否が分かれるのか、という疑問も多くの人にあった。紙面に掲載された市民の意見には「義理人情にさいなまれて互いに対立していくのは極めて切ない」という表現も見られた。賛否を単純な図式で報道するのでなく、情に深い人間の一番切ない話だというニュアンスをもっと紙面で読みたかった。がれきの問題は現在進行形で、取材しがいのあるテーマ。もっと情報を伝えることに期待したい。賛否のどちらが良い、悪いという話ではない。それが人間社会そのものだから。

 <有馬委員> 非常に難しいテーマだと思うが、論点を整理して「積み上げる」という視点が欲しい。連載「がれきの行方」の番外編で掲載した安全基準や風評被害などの課題を箇条書きにした表は分かりやすかった。現時点における問題点を分類・整理して定期的に載せることが重要。定例議会前のタイミングで議員が参考にできるような記事が出れば、首長への質問や議員の討論で、もっと議論の促進に貢献できたと思う。

 受け入れ自治体の焼却や埋め立てに対する補助金がどうなるかなど、追跡報道も少ないように思う。状況の変化が分かりにくく、同じところを議論している感じがする。また、反対の声は多く届くが、賛成の意見は届かないという側面もある。宮日に届いた意見は反対が多いということだが、実際は賛成意見がもっとあるかもしれない。県民の意見の全体像が見えておらず、世論調査を行うことも必要ではないか。

 <丸山委員> 問題についてどう考えるか、判断する材料が少なかった。焼却施設のバグフィルター(高性能排ガス処理装置)で何をどの程度取り除けるのか、がれきの危険性はどれくらいあるのか、など基本的な内容が分からない。心情的にどう考えるかでなく、あくまで科学的に考えるための判断材料を提起すべきだ。

 自治体が結論を出す際のプロセスもしっかり報道してほしい。結論までの過程で住民の声が反映されたか、議会で必要な議論が行われたか、内容と手続き面を考える必要がある。一方、これまでにがれきを受け入れないと決めた自治体もあるが、連載「がれきの行方」には記述が少ない。その部分についても書かないとフェアじゃない。

 <森報道部長> 論点を整理してさまざまな立場の声を反映した上で、多角的、立体的な報道が足りなかったという指摘だった。難しい問題だが指摘に真摯(しんし)に向き合い、報道の展開を考えたい。

 <町川社長> 世論の把握は大変難しい。一定の時期にそれなりの論点整理をした上で、世論調査ということも必要なのかもしれない。

 <青木委員長> 復興を支援したい気持ちと、放射能が残るかもしれない懸念をてんびんにかけて、どちらを選択するかと言われている。それを誰かが判断しなければいけないことがやっかい。国は自治体に広域処理を要請したが、強制的にどちらかに決めることを義務付けてはいない。その点は県も分かっていて、期限を決めて決断が必要という縛りを掛けていないし、掛けられない。世論が自ずから決めていくことがあるかどうかの問題になる。



■みやにち防災特集/テレビと連携模索を/発生時役立つ情報欲しい

 ―みやにち防災特集について、読者に必要な紙面構成になっているのか、率直な意見を聞かせてほしい。

 <青木委員長> 災害報道は報道機関にとってあらゆる情報の中で最優先に取り組むべき分野。ジャーナリズムの生命線でもある。毎月特集を組んで報道していく姿勢は当然あっていい。読者も共通して関心を持っており、期待もしている。だが、残念ながら「慣れ」が生じるのが読者の習性。最初は驚いていた津波高の想定も驚かなくなってくる。熱心に読んでいた特集も、読む量が半分、4分の1になっていく。その中で飽きさせずに注目を集め続けるアイデア、知恵、テクニックが求められる。

 災害の分野はとても幅広く、情報の軽重もある。企画の段階で慎重に分類し、常に新しい高度な情報を提供し続けてほしい。特集を濃密な形でまとめて「防災ハンドブック」として出版することも可能になる。電波と比べた新聞の特徴も生かしてほしい。

 <有馬委員> 災害について分かりやすく分類しており、読者の興味を引き付ける内容。現場の先進事例が紹介され、災害にかかわる人たちも興味を持てると思う。次の展開として、テレビ局とのコラボレーションを企画してみてはどうか。新聞とテレビが連携して防災報道に取り組めば、より効果的に啓発できる。さらに発展させて、宮日が音頭をとってメディアが集う防災連絡会議の設置も考えられる。

 <丸山委員> 特集の記事はそれぞれ大事だが、どこにフォーカスを当てているのか分からず、立体的に記事がみられない。ここだけは読んでほしいという記事がないように感じる。例えば、津波のシミュレーションでは水没地域の説明で終わっている。もし水没したらどうなるかを知り、事前に何ができるか考えたい。

 具体的には、乾電池や非常食など災害への備えや、保険を含めた契約関係の話など生活レベルの話題も入れてほしい。それらをリストアップすれば災害発生時にすごく役立つ。災害報道はすべての記事で勝負しようとすると厳しい。もう少し分析を入れて、一つでもストライクが入ればいいと思う。


 ―大規模災害時の取材マニュアル策定を予定しており、報道部を中心に内容をまとめている。

 <川路報道部次長> これまで具体的な初動取材の取り決めがなかった。沿岸の支社・支局の記者が避難場所を兼ねて津波を撮影できるポイント選定などを進めている。7月中に骨子案をまとめ、夏にマニュアルを策定したい。

 <青木委員長> マニュアルは経験に即して当然策定しておくべきだ。しかし、実際の災害は想像を超える起こり方をする。マニュアルという金科玉条に縛られると、応用が利かなくなる。災害報道はそこが難しい。最近は特にヘリによる取材が常識になってきた。宮崎は山間地が多く、道路も発達しているわけではない。災害時には到着することさえ難しい場所もある。空からどうやって現地に到達できるかも課題になってくる。

 <丸山委員> マニュアルを作る際は、ぜひ人権にも配慮いただきたい。東日本大震災では目に余る報道がたくさんあった。被害者や子どもに対してどう接するか、どこまで一つの場所に取材を集中させるか、など想定しておくことが必要。阪神大震災では、ヘリの騒音が大きすぎて、がれきに埋まっている人の悲鳴が聞こえないケースもあった。その点も配慮いただきたい。



【写真】震災がれきの報道や防災特集について意見を出し合った「宮日報道と読者委員会」=6月29日午後、宮日会館



本社側出席者
 代表取締役社長・町川安久▽取締役編集局長・大重好弘▽論説委員会委員長・河野州昭▽編集局次長・田代学▽報道部長・森耕一郎▽経済部長・鳥越眞也▽文化部長・末崎和彦▽運動部長・井野浩司▽地域情報部長・外前田孝▽写真部長・崎向秀次▽報道部次長・戸高大輔、川路善彦▽読者室長・寺原達也