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第33回会合 自由な立場で主張を

2013年2月15日
(2013年02月15日付)

 宮崎日日新聞社の報道の在り方を検証する「宮日報道と読者委員会」(委員長・青木賢児メディキット県民文化センター理事長、3人)の第33回会合は8日、宮崎市の宮日会館であった。昨年12月の衆院選報道や1月から始まった連載「論・考・道州制」をテーマに、青木委員長と有馬晋作委員(宮崎公立大教授)、丸山亜子委員(宮崎大准教授)の3人が本紙の編集担当部長らと意見交換した。(司会 編集局次長・田代学)

■衆院選報道/「100問」で候補者理解/地方の問題にやや偏り

 -昨年12月の衆院選では、12の政党が乱立した。選挙報道を通して、十分な判断材料を読者に提供することができたか。

 <青木委員長> 企画やシリーズの量が多く、単行本1冊を超えるような情報が提供された。だが無党派層や若い人たちが、どれだけ接触してくれたのか。1区からは複数の政党から候補者が出たが、結果的には2、3区も含めて自民党が圧勝し、日本の全体の流れと同じだった。一番面白かったのは100問アンケートで、候補者の人柄や考え方がよく分かった。考えをあぶり出すには、さまざまな技術や着想がないとできない。また今回の選挙では県内で11人が立候補したが、女性は1人もいなかった。記事ではあまり触れられていなかったが、本県では歴史的に見ても女性の立候補が少ない。女性候補者が出てこない土壌は何なのかを知りたかった。

 <有馬委員> 候補者は地元の代表であり、国民全体の代表でもある。しかし100問アンケートをすると、地元の代表的な意識で回答してしまう。だが環太平洋連携協定(TPP)のように個人と党では考えが異なることもあるので、アンケートの中で候補者に政党の理念を尋ねることも必要ではないか。政治にはさまざまな利害や価値観を調整する役目のほか、弱者を救う役割もある。連載企画「叫び」では、深刻な弱者の姿に焦点を当てていた。企画の中で、母子家庭への対策や本県の自殺率の高さを問題点として指摘したのならば、直接候補者に解決策を聞いてもよかった。

 <丸山委員> 衆院選は国政選挙であり、選挙区から選出された候補者は全国民の代表としても振る舞う。報道を振り返ってみると、本県で起こっている問題に重点を置き過ぎていた。本県の問題が、ほかの地域にも共通するということを提示することも必要だった。全体的な印象としては、経済や雇用、人権、ジェンダーの視点が薄かった。100問アンケートは面白い企画ではあったが、雇用に関連した質問は「定年退職の年齢が何歳が適当か」だけだった。本県でも深刻な若年者の雇用や、中小企業をどうするのかなど、アンケートに含めてもよかった。

 <大重編集局長> 100問アンケートは初めての取り組み。今年は参院選も控えている。今後はさまざまな視点に立って、質問の内容を精査していきたい。

■重要なテーマ賛否紹介必要

 -今回の選挙では若年層の投票率が低く、さらに全体の投票率も過去最低だった。新聞でどのようにアプローチをすれば、投票率の向上につながるか。

 <丸山委員> (開票結果を予想するため)選挙直前に掲載される世論調査の結果を見て、投票に行かない人もいるのではないか。だれが当選するのかは関心が高いかもしれないが、このような調査はネットでもできる。ネット時代の新聞の役割は、きっちりと取材しないと分からない課題を取り上げること。例えば年金や若年者雇用の問題は、いろいろな観点からみないとわからない。若い人たちの中で「一票を入れたから何かが変わる」という手応えが感じられるようになると、投票への意欲も上がると思う。

 <有馬委員> 複数の新聞を読み比べるとバランスが取れた考えになるが、一般的には一つの新聞しか取っていない。地方では地方紙の影響力が大きいと言われる。公平であるためには、重要なテーマであるほど賛否両論やメリット、デメリットを紹介することが必要。学生は新聞も読まないが、テレビも見ない。一方で政治家のブログを読んで、親しみを寄せる学生もいる。今後は選挙戦にもネットが導入されるだろう。20代の人に情報を到達させるには、ネットを使った報道は有効だと思う。

 <青木委員長> 電波ジャーナリズムと新聞ジャーナリズムは法律が異なる。電波法では立ち位置に制約があるが、新聞の場合は本来何もない。公選法に抵触しない限りはどのような立場も示せる。電波法の登場後、新聞も公平性にこだわりすぎている感じがする。自由な立場で、新聞が考える主張を選挙戦の中で出していってもいい。若い人が投票に行かない限りは、投票率は上がらない。若い人が政治に関心を持たないのは政治不信の問題が大きいが、政治そのものが若者に伝わっていないことも関係しているのではないか。若者が興味を持つような企画力や報道の仕方を考える必要がある。


第46回衆院選 昨年12月4日公示、同16日投開票。本県選挙区では1区に6人、2区に3人、3区に2人がそれぞれ立候補。いずれも自民党が議席を確保した。比例代表では、1区で落選した日本維新の会の元職1人が比例代表九州ブロックで復活当選。県内小選挙区の投票率は55.69%と過去最低だった。宮崎日日新聞社は、環太平洋連携協定(TPP)や消費増税、原発問題などの争点を題材にした連載のほか、候補者への100問アンケートなどを紙面で展開した。


■連載「論・考・道州制」/県民への影響 多面的/構造的な問題分析不十分

 -道州制をテーマに1月から連載が始まった。注目している点やこれからの報道の在り方、期待について伺いたい。

 <有馬委員> 連載では教育や居住地、介護などのテーマに触れていたが、県民は必要があれば容易に県を越えてしまうということが分かった。しかし、なぜこんなに容易に県を越えてしまうかという構造的な分析が不十分。本県は県庁所在地である宮崎市の人口規模が小さく、延岡、都城市に分散している。熊本、鹿児島は県庁所在地に人口などが一極集中しており、都市としての魅力を確立している。県境周辺の市町村にとっては、隣県の県庁所在地のほうが都市的魅力が高いというメリットがあり、インフラが整備されていると、簡単に外に出てしまうという構造的な問題があると思う。また、私の感覚では熊本、福岡県は道州制導入へ盛り上がっている様子だ。鹿児島県は薩摩藩という概念で言葉が一致しており、いざとなれば賛成するかもしれない。道州制に賛成か反対か決めようとなったとき、県民が宮崎に愛着があるかがポイントとなる。本県の歴史や県民が一体感を持っているか、県民としてのアイデンティティーは何かといった点も取り上げてはどうか。

 <丸山委員> 県外の学校に進学するとか、買い物客が県外に流出することは、宮崎は鎖国しているわけではないので驚くべき話ではない。国がなぜ道州制を導入しようとしており、それによって県民と宮崎がどのように影響を受けるのか、まずそこを的確に説明する必要がある。道州制がもし導入されると、国は財政負担をカットし、市町村や道州は自主財源で賄うよう指示されるだろう。生活保護を道州に委ねるとどうなるのか。国の出先機関を廃止するとどうなるのか。教育の機会や質の切り下げにならないか。財源が豊富な道州と少ない道州で格差が生まれ、セーフティーネットの切り下げにつながりかねない。

 <青木委員長> 道路ができると隣県の商店に人が流れてしまうが、そのような視点は道州制の是非の議論にはならない。人間の価値観はもっと柔軟で流動的なもの。「県民はみんな大都会にいってしまう」というのも空想みたいなもので、都会は利便性などが高いが、都会に住みたくないという人も自然の中で暮らしたいという人も多い。宮崎に住むのは快適で、東京と比べても生活面では豊かだと私は感じる。人為的な道州制という自治の区域を変えても、それがみんなにとって共通の意味を持つとは思わない。教育や医療の問題を取り上げていたが、本当に幸福かどうかの価値観はもっと多様化していいと思う。

 <戸高報道部次長> 指摘を次回以降に生かしたい。第2部は市町村合併の現場について取材を進めている。

 <森報道部長> 道州制導入で宮崎がどうなっていくのか具体的な議論がないため、喚起できればという大きな目的を持って連載を始めたが、ご指摘の通り多面的な問題がある。県民の愛着心やセーフティーネットなどについて勉強しながら、さらにいいものにしていきたい。


道州制 都道府県をなくし、「道」や「州」に再編する。国の役割は外交や防衛などに限定し、道州に行政権限や財源を大幅に移譲することで、地域の実情にあった政策立案や行政効率化を進めるのが狙い。区割りをはじめとする制度設計は決まっていないが、安倍内閣は道州制基本法の早期成立を目指している。宮崎日日新聞社では、1月1日付から連載「論・考・道州制」を掲載。第1部「緩む境界」として、教育や観光などで県境を越えた動きが活発化している現状を伝えた。


【写真】衆院選報道のあり方について活発な意見が交わされた宮日報道と読者委員会=8日午後、宮日会館

本社側出席者
 代表取締役社長・町川安久▽取締役編集局長・大重好弘▽論説委員会委員長・河野州昭▽編集局次長・田代学▽報道部長・森耕一郎▽経済部長・鳥越真也▽文化部長・末崎和彦▽運動部長・井野浩司▽地域報道部長・外前田孝▽写真部長・崎向秀次▽整理部長・黒木裕司▽報道部次長・戸高大輔、諫山尚人、中山貴史▽読者室長・寺原達也