ホーム 宮日報道と読者委員会

第34回会合 多角的な分析必要

2013年6月14日
(2013年06月14日付)

 宮崎日日新聞の報道の在り方を検証する「宮日報道と読者委員会」(委員長・青木賢児メディキット県民文化センター理事長、3人)の第34回会合は7日、宮崎市の宮日会館であった。4月に始まった連載企画「食農激流」や環太平洋連携協定(TPP)を取り巻く状況など農業報道をテーマに、青木委員長と有馬晋作委員(宮崎公立大教授)、丸山亜子委員(宮崎大准教授)の3人が、本紙の編集担当部長らと意見を交わした。(司会 編集局次長・田代学)

■農業報道/流通過程より深く/口蹄疫作文命の尊さ実感

 -シリーズ企画「食農激流」の第1部では、本県ブランドの今に焦点を当てた。連載への率直な意見を聞かせてほしい。

 <青木委員長> 宮崎牛が日本一になるなど、本県の農業は立派で県民として誇らしい。一方で、農業者の生活、とりわけ中山間地の農家を取り巻く環境は、年々厳しくなっている。商売の基本として素晴らしい生産物ができれば、その生産者は潤うはず。なぜ本県の農業はそうなっていないのか疑問だった。連載を読んでいると、流通していく点で問題、手詰まり感を抱えていると分かった。生産と流通との乖離(かいり)が基本にあると思う。流通には生産と同じくらいのエネルギーを割くことが必要だ。農業者周辺の商業システムなどをさらに深く解き明かしていくと、宮崎の農業の問題点や将来の展望が見えてくるのではないか。

 <有馬委員> このシリーズは地域間のブランド競争にいかに対応すべきかという話で、安倍首相が掲げる「攻めの農業」の中の一つの主張という印象を受けた。宮崎は環太平洋連携協定(TPP)の影響が深刻であると予想されている。政府が挙げる成長戦略は、やる気がある農家や農業法人を伸ばす一方で、農家数が減ると懸念されている。そうなれば宮崎にどういう影響があるのか。地元紙として、単に農業を守るという観点だけでなく、農業が支える地域経済、波及効果まで視野に入れた記事を出してほしい。

 <丸山委員> 生産側だけでなく消費者にもスポットを当て、食と農をうまくリンクさせていた。みやざきブランドの弱みや、他産地の取り組みなどにも着眼しており、新しさを感じた。ただ、料理店で食材がどのように取り扱われているのか、消費者は購入する際に何を考えているのかなど、多角的な視点からの分析を加えれば、さらに読み応えがあった。加えて、TPPなど加速するグローバル化をもう少し意識し、何が問題かを浮き彫りにするだけでなく、次のアクションの提案までしてほしい。

 <森報道部長> 食を取り巻く環境は変化し続けている。その変化に本県農業は対応できているのか検証するという意味で、食と農の二つの観点から連載を始めた。今後は地産地消やグローバル化などに触れながら連載を展開していきたい。

 -本紙が提唱する口蹄疫を忘れない日(4月20日)に合わせて作文コンクールを実施し、ラッピング紙面を製作した。口蹄疫報道を継続することは宮日の“足場”であり、農業と地域を結ぶのは地元紙の役割と考えている。

 <青木委員長> 作文コンクールの作品には、作ってもできないような感動的な話があった。読みながら、こういった活動は大事だと実感した。だからこそ、もっと多くの人が見られるような工夫も必要。農業の中から生まれた自然とのドラマは、人間の根幹に訴えるような内容のものばかりで、特に子どもたちには是非読んでほしいと感じた。

 <有馬委員> ラッピングは幅広い世代、職種の人たちが載っており迫力があった。中に掲載されていた作文や記事も含めて、農業を核とした本県の一体感が伝わってくる紙面だった。命の尊さも再認識することができた。

 <丸山委員> 作文は心を打つ話ばかりだった。東日本大震災の発生で、口蹄疫や新燃岳の噴火などは全国的には忘れ去られている。作文を県外に発信する手段があればと強く感じた。また、ラッピング紙面の中で口蹄疫を感情だけでなく、科学的に検証していくことが重要とのコメントがあった。確かに感情論だけではいけない。殺処分や行政の対応などについて、今だから見えてくることもあるはず。宮崎は自然に囲まれており、口蹄疫や鳥インフルエンザの発生が相次いでいる東アジアとの距離も近い。リスクに備えるという観点から、防疫についての記事も欲しかった。

 <大重編集局長> 口蹄疫を忘れない、風化させないということを念頭に置いて、今後も継続して報道していきたい。

メモ】 連載企画「食農激流」本県農業は激しさを増す産地間競争を勝ち抜く強さを備えているのかどうかを、農業と表裏一体の関係にある食卓事情の変化を踏まえながら検証する。第1部は「ブランドの曲がり角」。11日に始まった第2部では、提唱されて10年余りがたつ「地産地消」にスポットを当て、県内のスーパーや県民の食卓など消費の現場を見詰め直し、課題と展望を探る。

■TPP問題/本質的議論が不可欠/消費者側の問題提起も

 -環太平洋連携協定(TPP)問題に関して、農業問題そのものかというと少し違う印象だが、宮崎の基幹産業は農業。今後、どこに軸足を置いて報道すべきか。

 <青木委員長> そもそも国際化は明治時代に開国して以来、日本で常にあった問題。日本人は国際化にうまく適応しながら生きてきた。TPPで農業は駄目になるというように厳しく論じられているが、問題が矮小(わいしょう)化されている。人類が地球上で生きていくなら、各国が連携をすることが一番いい道だ。TPPから外れ、孤立化することは、安全保障など日本の未来の安全にも関わってくる。もうかる、もうからないという限定的な現象だけを大げさに表現していくのは、報道の筋道を間違っているように感じている。しかし、TPPが動きだしたら、農業分野での調整は国内政治の問題で、国の責任は残る。どういう連携と調整が必要かは議論すべきだ。

 <有馬委員> TPPをめぐる本質的な議論は逆に行われていないと感じている。医療や福祉、電力、食料など生活関係に関わる分野は国際化になじまないのではないか。経済学者の「参加は当然」という意見が優先されてここまで来たが、グローバル化の流れには譲れない部分もあるのではないだろうか。また、関税を撤廃したら、国内総生産(GDP)など工業関係は伸びるという話だったが、試算結果に関しても吟味されていない。試算も参加表明時に判明するのはあんまりで、事前に中身を知らせるべきだ。次期参院選に関しては、全国紙も「TPPやむなし」という雰囲気で、争点にならないかもしれないが、果たしてそれでいいのだろうか。自民党は「地方の味方」というイメージで乗り切ろうとしているが、都市部や日本全体の経済運営を見ているのが現在の自民党政権。この点を問うてもいいかもしれない。

 <丸山委員> TPPは農業の問題だけではなく、さまざまな分野が含まれた一つのパッケージで、これを受け入れるかどうかということ。そんな中、農業問題だけを議論することに説得力があるだろうか。他分野ではどういう影響があるか、そもそも今参加しないといけないのかという議論も必要だろう。ただ、農林水産損失額の試算は確かにショッキングで、一番割を食うのは農家であるのは間違いない。残念ながら日本がTPPに参加しないという選択肢は取れないだろう。しかし、参加してから「困った」「損失が出た」ではしょうがない。参加後の、次の議論も欠かせない。戸別所得補償制度をどうするか、食の安全をどう守るか、消費者視点での問題点は何か、そういう提案まで踏み込んでほしい。

 <大重編集局長> 不幸なのはTPPが何かということを誰も理解していないこと。農林水産業の試算だけ出て、農業と工業の対決という報道になっている。あまりにも大きい課題で地方紙がどこまでできるかは分からないが、食の安全など素朴な疑問にはきっちり答える紙面でありたい。

 <町川社長> いずれにしてもTPPは国会の批准が本番で、その際には必ず選挙の争点になると考えている。地方紙の存在理由は地域を守っていくこと。その本番までに地方発の材料をしっかりと提供していきたい。


環太平洋連携協定(TPP) アジア太平洋経済協力会議(APEC)に加盟する米国やオーストラリアなど11カ国で交渉中の自由貿易協定(FTA)。全物品の関税撤廃が原則で、サービスの自由化も検討する。安倍首相は3月に交渉参加を正式表明。農林水産物の国内生産額約3兆円が失われるとの試算も発表した。4月には11カ国が日本の参加を承認。7月下旬から交渉に入るとみられる。


【写真】連載企画「食農激流」や環太平洋連携交渉などについて、意見が交わされた宮日報道と読者委員会=7日午後、宮日会館

本社側出席者
 代表取締役社長・町川安久▽取締役編集局長・大重好弘▽論説委員会委員長・河野州昭▽編集局次長・田代学▽報道部長・森耕一郎▽経済部長・杉尾守▽文化部長・鳥越真也▽運動部長・井野浩司▽地域報道部長・外前田孝▽写真部長・佐々木聡▽報道部次長・戸高大輔、諫山尚人▽読者室長・寺原達也