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その子の親の気持ちになって

2022年12月6日
 昔の学校では、体罰が当たり前のように横行していた。そんな時代に中学校の教師をしていた人から聞いた話。昭和40年代初頭、勤めていた学校に、なにかというとすぐに生徒をたたく若い男性教師がいた。

 やがて、その教師に子どもが誕生した。すると、あれだけ”たたきまくっていた”のがうそのように、一切生徒に手をあげなくなったそうだ。その教師いわく「自分の子どもが将来、学校で同じことをされると想像したら生徒をたたくことができなくなって…」。

 えびの市出身のイラストライター・松本こーせいさんの「石井十次物語」の中に十次の妻・品子の話が出てくる。品子は優しく、親身に孤児の世話をしていたが、自分に実の子ができる前は「本当の親心に比べたら自分の接し方はどうなのだろう」と自問していたらしい。

 親になった自身の気持ちを生徒の親の気持ちに重ねた、くだんの男性教師も立派だが、親になる前からそれができていた品子はもっと立派だといえよう。幼さゆえに至らないことばかりの子どもであっても、人としての尊厳は大人と全く同じで、その一人一人に彼らを慈しみ大切に思う親がいて…。

 保育のプロでありながら、そんなことも分からなかったのか。静岡県裾野市の保育園で起きた虐待事件。3人もの保育士が関わっていたことに暗澹(あんたん)たる気持ちになる。しかも隠ぺい疑惑まで…。徹底的に膿(うみ)を出してもらいたい。園児とその親の気持ちになって。

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