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花は誰のもの?

2022年12月13日
 へぇ、今の若い人がこんな歌を…。友人に勧められて聴いたのは、女性アイドルグループSTU48の「花は誰のもの?」だ。この世界から国境が消えたら、争いはなくなるのに…という意味の歌詞で始まる。

 今年の春にリリースされたものという。全体を通して聴くと、反戦ソング―の言い方が古いとすれば世界平和を願うメッセージソングそのものである。歌詞は秋元康さん、曲は元チェッカーズの鶴久政治(つるく・まさはる)さんという、古い世代にはなかなか魅力的な組み合わせだ。

 力強さを感じる詞とメロディー。聴きながら二つのものを思い浮かべた。一つはちょうど30年前の1992年、日本人2人目の宇宙飛行士としてスペースシャトル「エンデバー」に搭乗した毛利衛さんが、帰還後に述べた言葉だ。「宇宙からは国境線は見えなかった」―。

 もう一つは以前小欄で紹介したことがある、ロシアの画家ニコライ・ポポフさんの絵本「なぜあらそうの?」だ。カエルとネズミが1本の花を奪い合うという「ささいなこと」から両者の間で戦争が始まる物語である。この歌の歌詞にも「誰のものでもない花」を奪い合う愚かさを歌う箇所がある。

 歌の理想には程遠く厳然と存在する国境。その国境を武力で変えようとした為政者が起こした戦争は年内に終わる見込みはない。そんな中「今年の漢字」に「戦」が決まった。ある程度予測はできていたが…。深いため息とともに、改めてその一文字を眺める。

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