伊賀忍者の里として有名な三重県伊賀市を取材で訪ねたことがある。まだインターネットが整っていない２０年も前のこと。同僚に手伝ってもらいながら１軒ずつ電話をかけて、ようやく宿泊先を確保できた。

　幼い子のいる家族が暮らす古い家を間借りする民泊形式だったのだが、その宿が驚きの連続だった。床の間近くに隠し戸やつり階段あり、隠し部屋あり。案内してくれた口数の少ない女性が真顔で「実は忍者の家系なんです」。忍者屋敷に宿泊とは”鳩に豆鉄砲”。

　一気に忍者愛が高まった。それ以来、忍者本を買い求め、名前が「忍」さんの人に会うとひそかに心が小躍りするようになった。そして今冬には、忍者ファン待望の吉報が舞い込んだ。横関大さんの小説「忍者に結婚は難しい」のドラマ化。原作の面白さから納得ものだ。

　小説にも描かれているが、忍者の重要任務に諜報（ちょうほう）活動がある。暗躍した戦国時代、密書をひも状にして着物に編み込むなどさまざまな隠匿術が発達。剃髪（ていはつ）した頭に文字を直接刻みこむ荒技もあった。体を張り、時に命を懸けて運ぶもの。それが「情報」だったのだ。情報は軽々に扱ってはならぬ―。

　そんな怒りの手裏剣が飛び交うのが、コロナに感染した知事の行動歴を記載変更するよう県担当課が依頼した件。忍者は敵を欺くが、主君に忠誠を尽くす。公僕である職員がもしや仕えるべき相手を見誤ったか。いずれにせよ情報操作は御法度なのでござる。