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震災とおむすび

2023年1月17日
 「非常食という言葉には冷たい響きがある。個別の栄養補給を第一に考えているためだろう」。これは15年前、本紙の企画「食再発見 変化のかたち」に掲載された広島修道大の今田純雄教授の言葉である。

 今田教授はかつて学生たちに、阪神大震災が発生した1995年当時のニュース番組を見せた上で「もし今、皆さんがこのような地震に見舞われたら何を食べたいと思いますか」と尋ねた。すると「豚汁」および「おむすびを含むご飯」が圧倒的に多かったという。

 豚汁が上位にきたのは「炊き出しの鍋を囲む人々の姿に、多くの学生が安らぎを覚えたためだと思う」と分析している。おむすびも同じだろう。普通の白飯でも災害時には十分ありがたいが、やはり「生身の人間の手に包まれたごはん」である、おむすびの方がよりいい。

 今田教授のいう「個別の栄養補給」。もちろん体の栄養も大事だが、それ以上に被災し、悲しみや喪失感、不安、そして人によっては孤独感などにさいなまれている被災者にとっては「心の栄養」がより重要だ。今田教授も「非常食に求められるものは、食を介した人の和だと思う」と述べている。

 その阪神大震災から、きょうで28年。そして当時ボランティアによる「おむすびの炊き出し」が多くの被災者を助けたことから、後に制定された「おむすびの日」でもある。改めて犠牲者を悼むとともに「有事における食の力」についても考えてみたい日だ。

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