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伝統も足かせになっては因習

2023年1月18日
 元宮崎交通社長で経済団体などの要職を務めた岩切達郎さんが亡くなった。いつも若々しくて頭がさえている印象だったので86歳と聞いて驚いた。1990年代の中頃にある会合であった出来事を思い出す。

 ホテル街のある大淀川沿いの堤防改修について識者らの意見を聞く懇談会。「景観を損なう」と多くの反対意見が県民からも起きた問題だが、既にかさ上げで決着済みだった。ところが岩切さんは議論の途中で「そもそも改修の必要があるの?」と”ちゃぶ台返し”。

 慌てた宮崎河川国道事務所の職員が河川氾濫対策の必要性を一から説明した。岩切さんは父(宮崎交通創業者・章太郎氏)が手がけた橘公園が改修されるのをエゴから抵抗したわけではない。防災対策を認識しつつも他の手段を徹底的に検討したかという問題提起だった。

 社内でも「(偉大な)章太郎氏がこう言った」「変えてはいけない」という思考停止がまかり通ることに反発。「守るべき伝統や理念はある。だが手かせ足かせになっては因習」(宮崎交通70年史)と時代に合うサービスを説いた。成人式を迎えた社員には毎回「センスのある好奇心を持て」と訓示した。

 本県経済界をリードした宮崎交通だが、2005年1月に産業再生機構に支援を申請。岩切さんは同社の経営から離れた後も、多くの団体の代表や役員を務めた。観光だけでなく本県経済の発展に果たした功績は大きい。一つの時代が去った寂しさを覚える。

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