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黄身を取るか白身を取るか

2023年1月23日
 小欄を担当する前の数年間、本紙「窓」面の係をしていた。「窓」の上にある自分史も含めてである。このコーナーは多くの方に読まれており「面白い」「共感した」などの感想を頂くことがけっこうある。

 担当した中で特に反響が大きかったのが、農村グリーンツーリズム「鬼が島」の鬼川利男さん(えびの市)の、幼年時代の思い出の回だった。終戦から数年後のまだ物がない時代。大好物の卵かけごはんの卵が、きょうだい3人で1個だったことが書かれていた。

 3等分する際、白身の部分をもらうと黄身より量が多くなる。黄身という「質」を取るか、白身でも「量」重視でいくか。子どもには切実な問題だったようだ。これが同世代の読者の心の琴線に触れたようだ。「自分も同じような経験をした」との感想が多数寄せられた。

 戦中、戦後を生きた世代には「卵が貴重」という共通体験があるようだ。さすがにそんな時代が再びやってくることはないだろうが、最近の鶏卵の高騰で消費量を減らした家庭は少なくないだろう。昨年からの飼料価格の高騰や、深刻な被害をもたらしている鳥インフルエンザによるものだという。

 〈寒卵(かんたまご)割るや命の輝きぬ〉(池田光知)。安価で栄養が豊富な卵。以前のレベル近くにまで戻るのはいつの日か。今はただ鳥インフルエンザの一日も早い終息と、採卵鶏の殺処分を余儀なくされた本県をはじめとする全国の養鶏農家などの早期の復興を願う。

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