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明治の息軒

2023年2月15日
 日脚が伸びて確実に春の足音を感じるこの頃。梅の名所から開花の便りが届くが、宮崎市清武町の安井息軒旧宅も見学の候補に加えてはどうだろう。梅を愛した息軒の手植えと伝わる古木も花を付けている。

 すぐそばの安井息軒記念館では企画展「明治の息軒」を開催中だ(入館無料)。県民誰もが知る古里の偉人。とはいえ「幕末の儒学者」というイメージが固定化していて、多方面に及ぶ業績はまだ研究途上だ。特に明治維新後、晩年の行動はあまり知られていない。

 知識人には知られていた息軒だが、著作が広く流布したのは活字印刷が盛んになった明治から。それほど息軒学問のニーズは高かった。驚いたことに発表後すぐ英訳された本もある。キリスト教の聖書を徹底的に読み込んで論理的、倫理的に批判した「弁妄」という本だ。

 理路整然とした論述に訪日西洋人らは安直なキリスト教批判とは一線を画す本と認識。日本人を理解するために英訳を急いだようだ。世界が最初に一目置いた日本人と言えようか。息軒は頑迷な保守主義者でも開国派でもない。実用的に西洋、日本両方の優れた部分を取り入れる柔軟な学者だった。

 企画展は古い書籍も触って読める画期的な展示法だ。青山大介学芸員は「近代日本をリードした政治家や文化人の多くが息軒の薫陶を受けた。文献の解析を進めて、再評価につなげたい」と話す。新時代を見据えた息軒の気概が梅の香りとともに漂っている。

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