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錯覚の危うさと楽しさ

2023年3月1日
 いつも通る宮崎市の市街地。毎回「傍らにネコがいる」と感じて足元を見下ろすビルがある。実は白黒の市松模様を描いた床のタイル。視野の端っこの方で捉えると白黒のネコのように錯覚してしまうのだ。

 「またひっかかった」とあきれるのだが、何かの形や影を別の物と判断してどきっとする体験は少なくない。県総合博物館で開かれている特別展「大錯覚展~これって どうなってるの?」(4月3日まで)を観覧しても、簡単にだまされるわが目を嘆く思いだった。

 同じ線が違う長さに見える。視線をずらすと画像が動く。丸い立体を鏡に映すと四角になる。不思議な世界のオンパレードだ。こんなに認識があやふやだと自信を喪失するが、制作、監修した錯覚アーティストの杉原厚吉さんは「間違う脳の働きは愚かではない」という。

 「外の世界は奥行きのある3次元だが、目の網膜に映る画像は2次元」なので「そもそも無理な難題を与えられている」。視覚だけの情報に頼って、すべて分かったつもりになるが、状況を間違えると事故に遭いかねない。「見ることの不完全さ、危うさを理解して普段の生活に役立てて」と説く。

 確かに原理を理解して利用すると、錯覚は世界を広げてくれる。例えば古来、日本の庭園は遠近法を利用し、植栽や石の配置で狭い敷地を広く見せる工夫をしてきた。ファッションや室内のインテリアなどにうまく取り入れれば、暮らしが楽しくなりそうだ。

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