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いまだ混乱の中

2023年3月6日
 「方丈記」を書いた鴨長明は戦(いくさ)にだけは直接巻き込まれなかったがありとあらゆる災難を経験している。大火、辻風(つむじ風)、大飢饉(ききん)、それにわずか半年で頓挫した「福原遷都」という”人災”。

 そして、きわめつけが1185年に起きた「文治(ぶんじ)地震」である。「山は崩れて河を埋(うづ)み、海は傾(かたぶ)きて陸地(ろくぢ)をひたせり。土さけて水わきいで、巌(いわお)割れて谷にまろび(転がり)いる」。一体、どれほど大きな地震だったのか。

 このときのマグニチュードは7・4だったといわれている。きょうでちょうど1カ月となる「トルコ・シリア大地震」は、それを上回る7・8。マグニチュードは地震が発するエネルギーの大きさを表した指標値のことで、それが0・4上がると、エネルギーは4倍となる。

 先月6日の発生時に第一報で2300人超と伝えられた死者はトルコ、シリア合わせ5万人を超えた。1カ月たちトルコでは、がれきの撤去が急ピッチで進むなど復興が緒に就いた感もあるが、当然いまだ混乱の中にある。一方、震災と内戦の「二重苦」にあるシリアでは人道支援もままならない。

 鴨長明は文治地震に関して「時がたてば口に出す者もいなくなる」と、風化を嘆いている。時がたたずとも、いろんなことが矢継ぎ早に起きる中で、意識から遠ざかってしまいがちな国内外の「つい最近の災難」だ。節目ごとでもいいから胸に刻み直したい。

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