かたつむりの悲しみ
2023年3月11日
畑の土を掘るとミミズが驚いてクルンと身を反らした。乾燥させたらかわいそうなので、慌てて土をかぶせる。「春」の下に「虫」二つを書いて「蠢(うごめ)く」。虫たちが蠢動(しゅんどう)し始めた今の季節にぴったりの表現だ。
「虫」はもともと「蟲」と書いて全ての生物を総称していた。羽や毛のない裸虫は人間のこと。鳥や昆虫、うろこのある動物や小動物とも同類という区別のなさが昔の人のおおらかさを表しているようだ。虫偏の漢字には、その生態が想像できて興味深いものが多い。
光を放つ蛍(螢)は火を頭上にともし、螺旋(らせん)の殻を持つのは螺(にな)、今が旬の蛤(はまぐり)は2枚の貝殻が合わさっている。諸説あるカタツムリ(蝸)は渦巻きの殻を背負うかわいらしい字形で、殻には何が詰まっているのか、殻をはがしたらどうなるのだろう、と子ども心をかきたてる。
上皇后美智子さまが以前、児童図書の国際会議で紹介して有名になった絵本に新美南吉の「でんでんむしのかなしみ」がある。「わたしのせなかのからのなかには、かなしみがいっぱいつまっている」と主人公の蝸が言う。友達を訪ね歩いて、どの蝸も悲しみを静かに持ち歩いていると気づく物語だ。
東日本大震災から12年。放射能汚染による帰還困難区域で、元の居所に戻れたのは住民登録者の数%程度。避難者はいまだに3万人を超える。避難先の生活が長引いて交錯する「帰りたい」と「帰れない」。ヤドカリほど簡単に宿替えできない蝸の悲しみを思う。
「虫」はもともと「蟲」と書いて全ての生物を総称していた。羽や毛のない裸虫は人間のこと。鳥や昆虫、うろこのある動物や小動物とも同類という区別のなさが昔の人のおおらかさを表しているようだ。虫偏の漢字には、その生態が想像できて興味深いものが多い。
光を放つ蛍(螢)は火を頭上にともし、螺旋(らせん)の殻を持つのは螺(にな)、今が旬の蛤(はまぐり)は2枚の貝殻が合わさっている。諸説あるカタツムリ(蝸)は渦巻きの殻を背負うかわいらしい字形で、殻には何が詰まっているのか、殻をはがしたらどうなるのだろう、と子ども心をかきたてる。
上皇后美智子さまが以前、児童図書の国際会議で紹介して有名になった絵本に新美南吉の「でんでんむしのかなしみ」がある。「わたしのせなかのからのなかには、かなしみがいっぱいつまっている」と主人公の蝸が言う。友達を訪ね歩いて、どの蝸も悲しみを静かに持ち歩いていると気づく物語だ。
東日本大震災から12年。放射能汚染による帰還困難区域で、元の居所に戻れたのは住民登録者の数%程度。避難者はいまだに3万人を超える。避難先の生活が長引いて交錯する「帰りたい」と「帰れない」。ヤドカリほど簡単に宿替えできない蝸の悲しみを思う。