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確かな形に重み

2023年3月22日
 書き手がいて、出版社があるだけでは地方の出版は成立しない。取り上げる素材があって活字を愛する読者のニーズがある。地方で文化活動に携わる多くの人々の思いが集まって、出版文化の花を咲かせる。

 きょう表彰式がある第33回宮日出版文化賞の受賞作2点と特別賞1点は、関係者らの長年に及ぶ地道な活動が全体的に伝わってきて圧倒された。まず「神楽のこころを舞いつぐ 宮崎神楽への誘い」(前田博仁著)。全神楽を実地に研究した強い意思に頭が下がる。

 ガイド本はこれまでもあったが、個人で膨大な研究データを分析することで、各地区の特徴や相互の影響が分かりやすくなった。神楽の担い手が減少し継承の在り方が模索される中で「こころを舞いつぐ」意味は深い。そして「小島静螂(せいろう)全句集成と俳句人生」(長友巖著)。

 県俳句協会の設立、運営に尽くした故・小島静螂さんの作品、エッセー、関係者の評論などを編集した。著者も含め戦後の本県俳壇を担った俳句仲間たちの情熱、交友や意見の衝突までまぶしい。特別賞の「風流(ふりゅう)小歌踊(こうたおどり) 五ケ瀬の荒踊」(小野久美子著)もまた、貴重な無形文化遺産を紹介する力作だ。

 出版の低調が叫ばれるが、今回の受賞作が本ではなく、ただパソコンに保存されたデータだとしたら、どんなに味気ないだろう。手に取って、しおりをはさみ、本棚で背表紙を眺めるだけでも重みが違う。確かな形に熱意が宿る。改めて教えてくれた3冊だ。

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