岸田文雄首相は、時にやや大仰な言葉を使う。その一つが「異次元」。少子化対策で出てきた言葉だ。何やらすごいことをやってくれそうな言い方である。この表現に見合う政策実現を、ぜひお願いしたい。

　もう一つは「総動員」だ。参院の代表質問で、賃上げ実現に向け「政策を総動員する」と述べた。「総動員」の言葉は、ロシアのウクライナ侵攻の記事でよく目にする。年配者の中には戦時の国家総動員法を思い出す人もいようが、本来はきな臭い言葉ではない。

　刑法を総動員したわけではなかろうが、法の門外漢からすれば「この案件にこの法律か」と考えさせられたものがある。路上生活者の女性に嫌がらせをするためにコンビニに入った１０代半ばの少女ら２人を、愛知県警が書類送検した件だ。容疑名は「建造物侵入」だった。

　少女らは女性に「おごる」と言って買い物かごに商品を入れておきながら、会計直前に女性を置き去りに。その動画をＳＮＳに上げていた。「バズらせ（多くの人に注目され）たかった」と供述しているという。もちろん乱用すべきではないが、今回の件にも適用できる法律はあったということだ。

　それにしてもである。気が滅入（めい）るのは、自分たちの承認欲求を満たすために平気で人を困らせ傷つける、その感覚である。到底理解しがたい、それこそ”異次元”の感覚に思える。少女らには十分に反省してもらいたい。人の痛みに対する想像力を総動員して。