老子の言葉に「知者不言言者不知（知る者は言わず言う者は知らず）」というのがある。物事の道理をわきまえる知識者は、それを軽々しく口にしない、逆にしゃべり過ぎる人は分かっていないという意味。

　「黙して語らず」。こちらは老子の言葉のように深い意味はなく、ただ単に「黙って何も言わない」という意味。悪い意味でも使われることはあるが、自身の行動の裏にある深い理由をあえて明らかにしないといったニュアンスで使われることの方が多いようだ。

　先週末に選挙応援で和歌山市の漁港を訪れていた岸田文雄首相に向けて筒状のものが投げ込まれ、爆発した事件。発生から３日になるが、いまだ分からないことばかりだ。殺意の有無、爆発物の殺傷能力…。そのため、現時点の逮捕容疑は「威力業務妨害」となっている。

　容疑者の男は、黙秘を続けているという。自分の罪ときちんと向き合い、黙することなくその理由も含めて自分の言葉できちんと語るべきだ。もちろん、どんな理由があれ、道理をわきまえて（物事の正しい筋道や人としての正しい道を知って）いれば、このような愚行に走ることはないだろうが。

　折しも５月のＧ７広島サミットを前に各地で閣僚会合が始まったタイミング。わずか９カ月の間に元首相、首相が相次いで狙われる異常な事態は治安のよさを誇る日本にとって大きなダメージだろう。ただ、今回は大きな被害が出なかったことが救いだった。