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牧水と坂本龍一

2023年4月21日
 随筆に日記、さらに手紙と、短歌以外にも多くの文を残した若山牧水。短歌に明るくない人にも、散文だと牧水の自然観や、その時々の思い、創作活動に対する強い熱意などが分かりやすく伝わってこよう。

 牧水の自然に対する思いを知る上で格好の文章がある。大正時代最後の年、1926年。牧水が住んでいた静岡県沼津市で、地元の「千本松原」の一部を伐採して財源に充てようという計画が持ち上がった。そのとき、牧水が地元の新聞に寄稿した抗議文である。

 分量の多さもさることながら、そこから伝わってくる牧水の思いの“熱量”に圧倒される。ありとあらゆる表現を駆使して、この千本松原がいかに貴重なものであるかをとうとうと述べた上で、伐採反対への論陣を張っている。このことも奏功して伐採計画は撤回された。

 先日亡くなった音楽家の坂本龍一さんが、東京都の小池百合子知事や永岡桂子文科相に書簡を送っていたという。明治神宮外苑の再開発に伴う樹木の伐採に反対する趣旨のものだ。その全文を読み、牧水の「千本松原伐採反対」の寄稿文と重ねた。分量は牧水に比べ少ないが共通するものを感じた。

 永岡文科相は5日、「再開発見直しを求める考えはない」との認識を示した。坂本さんからの手紙に関しては「神宮外苑の未来に対する強い思いを感じた」という。思いの強さは感じだが”それはそれ、これはこれ”ということか。坂本さんの思いの行方は…。

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