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うな丼大臣

2023年4月30日
 大事な役回りにかかわらず、非常時に際してその場にいなかったり、駆けつけられないことがある。仕方ない状況なら責められないが、後の対応で責任感の希薄さが露(あら)わになって、評価を落とすこともある。

 歌舞伎「仮名手本忠臣蔵」で早野勘平という不運の浪士がいる。主人の塩冶判官が松の廊下で悪役の高師直に切りつけたが、周囲に制止され本懐を遂げることができなかった事件が発生。お家の断絶がかかる一大事だが、お供の勘平はその場に居合わせなかった。

 仕事中に恋人とあいびき、つまりデートをしていたためだ。責任を痛感し切腹しようとするが、恋人に止められ一緒に駆け落ち。その後も悲劇に見舞われる。難しいのは演じ方。不運の連続で同情を集める人物になればいいが、へたすればただ不器用で愚かな人物に映る。

 谷公一国家公安委員長の場合はどうだろう。岸田文雄首相が襲撃された一報を受けた際、視察先の高知県で食事の寸前だった。その後の会合で「うな丼をしっかり食べた」とあいさつ。治安対策担当の閣僚として問題、と参院本会議で立憲民主党の議員から更迭要求が出されたが、首相は拒否した。

 谷氏が語るように食事は大事。首相の無事を確認した後でもあった。うな重、いや重箱の隅をつつくべきでないと野党を批判する声もある。ただ谷氏の会見を見てると、勘平のような緊張感が伝わってこなかったのも確か。お家(国家)の一大事だったにしては。

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