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「忘れないで」のメッセージ

2023年5月4日
 2052年度…なんと29年後だ。現在の自分の年齢に足すと、希望的観測をもってしても間に合いそうにない。生きていても現地に行く元気はないだろう。16年4月に起きた地震で、被災した熊本城である。

 当初は、37年度の完了を目指していた。だが、国指定の重要文化財を含む石垣の価値を維持しつつ、安全性も補う「全国初」の工事だ。時間を要するため工期を再設定した。可能な限り元の石材を使い地震前の写真と比べながら、元の位置を特定するのだという。

 積み直す石は、およそ10万個。気が遠くなるような地道な作業を続ける工事関係者に頭が下がる。一方、同地震で全壊した阿蘇神社の、同じく国重要文化財の楼門は、年内には復旧するという。先日訪ねてみると、大型連休前にもかかわらず、多くの人でにぎわっていた。

 足場などに囲まれて全容は見えなかったが、わずかにのぞく銅板の屋根に完成が近いことを実感した。現地までは高速道を使わず被害が甚大だった益城町(ましきまち)を通るルートで行った。地震発生から7年。かつて全半壊した家々の後には新築の家が建つなど、かつての生々しい被災地の風景は薄れていた。

 表面的にはそうでも、実際にはまだ復興の途上であることは間違いない。どんな災害であれ、被災地が避けたいのは「風化」だろう。忘れないで―。熊本城の長い工期は、そのメッセージにも思える。口蹄疫を経験した本県にはその思いはよく分かるだろう。

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