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母の愛「いっぱい」

2023年5月16日
 花屋さんの書き入れ時はおおざっぱに言うと年2回あるそうだ。クリスマスからの年末年始、春の卒業・入学式シーズンから母の日まで。近くの店頭をのぞくと長丁場の繁忙期を終えた安堵(あんど)感が漂っていた。

 コロナ禍で打撃を受けた花卉(かき)業界が復調している兆しにも一安心。店頭では早くも、主力商品だったカーネーションが特等席をアジサイに譲っていた。母の日は過ぎたけれど、端っこに追いやられて名残惜しそうなカーネーションにあやかり絵本を1冊紹介したい。

 「ちょっとだけ」(作・瀧村有子、絵・鈴木永子)はロングセラーの絵本だからご存じの方も多いかもしれない。なっちゃんという女の子にきょうだいが生まれ、赤ちゃんが家にやってきた。お母さんは赤ちゃんの世話に掛かりきり。手をつなぎたい、牛乳を飲みたい―。

 なっちゃんが「ちょっとだけ」我慢するたび自分でできることも増えて「ちょっとだけ」成長する。でもとうとう、眠くなったなっちゃんが我慢しきれず「ちょっとだけだっこして」。応えるママの言葉がまたいい。「ちょっとだけ じゃなくて いっぱいだっこしたいんですけどいいですか?」

 子育ては理想と現実のはざまで思い悩むことも多い。愛情を与えているつもりでも、子からハグされて逆に愛情を与えてもらっていることに気づくのも子育ての奥深さ。「ちょっと」の時間でも愛情が「いっぱい」なら、それだけでかけがえのないものになる。

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