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ビワの実の思い出

2023年5月17日
 「ビワがなったから採りにこんね」。同じ団地の知人から連絡を受けて、昨日赴いた。例年、梅雨時が目安だったが、その人が言うには今年は冬が暖かかったせいか、いろいろな作物の収穫が早いとのこと。

 確かにオレンジ色の実がたわわに実っていて、枝をしならせている。早速もいで食べたら、優しい甘さが口に広がった。簡単に皮を手でむけるのがいい。ただ中の種子が不似合いなほど大きいのが面倒ではある。「食べ頃はあと1週間くらいかな」と知人は言う。

 うぶ毛に包まれたビワの実はどこか郷愁を感じさせる。おやつ代わりに食べていた世代の感傷かもしれない。中学生の頃、学校の帰りに悪友たちとよくビワを食べた。たぶんもう時効なので明かすが、畑を抜ける道の脇に立派なビワの木があり、そこによじ登って採った。

 昔とはいえ勝手に採っていいわけはないから、今は申し訳ない気持ちだ。一言申し出ればよかったが、誰の木か分からない。いつ誰に怒られるか分からないので、見張りを立たせてこっそり採った。背伸びしてスリルに酔っていた面もある。ただ当時は庭木にビワを植える家が多かったように思う。

 固い木は建材にもなる。よく寺に植えてあるとも聞く。お坊さんが果実を期待するわけではなく、葉を煎じて飲めばせき止めなどの薬効があるとされるからだ。神経痛の生薬として直接葉を肌に張ることもある。寺が地域の医療の一端を担っていたのだろう。

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