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漫画家たちの戦争

2023年5月19日
 昨年、長崎原爆資料館で一冊の漫画本を買った。タイトルは「漫画家たちの戦争 原爆といのち」。手塚治虫さんや「はだしのゲン」の中沢啓治さんなど、6人が「原爆」をテーマに描いた作品を収めている。

 そのひとつに「九平とねえちゃん」がある。高度成長期の東京の下町。早くに父を亡くし、母と弟と3人で暮らす女子学生のユキ子はある日、ひょんなことから写真店を営む青年・裕(ひろし)と出会い、淡い恋心を抱くようになる。しかし、裕は原爆症に冒されていて…。

 作者はかの赤塚不二夫さん。裕がユキ子に言う。「みんな原爆のことなど少しずつ忘れかけてきているし、今の若い子たちは何も感じなくなっているみたいだ」。描かれたのは1966年である。終戦からわずか20年ちょっとで、すでに風化が始まっていたのかと驚いた。

 この作品を含め、6作品で描かれる原爆がすべて「広島」のものである。その地を舞台に、きょうから先進7カ国首脳会議(G7サミット)が開かれる。今の日本の首相が広島出身というのは、大きな意味を持っていよう。議長国としてどのような成果を挙げ、どのようなメッセージを発するのか。

 赤塚さんの漫画は「ユキ子は悲しい思い出の中からいろいろなことを学び取って成長していくだろう」といった文言で終わる。80年近い月日が流れてもかの“惨劇の地”からは、いまだ多くのことを学べるはず。参加国の首脳にもその学びを持ち帰ってほしい。

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