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日食が終わらせた戦争

2023年5月20日
 「リュディアとメディアの間に戦争が起こり、5年に及んだ(略)6年目に入ったときのことである。突然、真昼から夜になってしまった。両軍ともそれを見ると戦いをやめ、和平を急ぐ気持ちになった」。

 古代ギリシアの歴史家ヘロドトスが「歴史」に記した、紀元前6世紀の「ハリュス川の戦い」についての記録である。「突然、真昼から夜になって」が意味するものは―。そう日食である。これが契機となり両者は停戦に至った。ゆえに「日食の戦い」ともいう。

 日食によって戦争が終わったのではなく、紛争が収まった国で日食があったのは10年前のウガンダである。このときウガンダの子どもたちに日食グラスを贈り、さらに当日は現地に飛んで観測の指導をしたのが、都城市のたちばな天文台の名誉台長・蓑部樹生さんだった。

 その準備に協力したのは延岡星雲高の生徒たち。当時、日食グラスの梱包・発送作業を取材した。紙面に掲載された写真を改めて見てみると、蓑部さんはじめ全員がいい表情をしている。国際天文学連合は先日、蓑部さんの名前を小惑星に付けた。星の名前に県内の人物名が付くのは4人目という。

 その朗報を喜びつつ、今、地球上で起きている紛争も日食が終わらせてくれないものかと夢想してしまう。だが、たとえそうであっても次に皆既日食が見られるのは来年の4月(日本では見られない)らしい。そんなには待てない。ウクライナもスーダンも。

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