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生成AIではない

2023年6月5日
 久しぶりにベートーベンの「交響曲第10番」を聴いた。ベートーベンが残した同曲のものとされるスケッチを基に、彼の作曲技法に詳しい研究者が35年前、足りない部分を補い第1楽章だけだが完成させた。

 当時、その記事を見たときは、正直”眉唾もの”との印象を持った。だが、実際に聴いてみると確かにベートーベンっぽい。ピアノソナタ第8番「悲愴(ひそう)」をほうふつさせるところもあって、聴き心地はすこぶるいい。「かなり精度が高いのでは」と思うに至った。

 それから30年あまり。2019年に「交響曲10番を人工知能(AI)を使って完成させる計画」が進行中という記事を見て驚いた。AIにベートーベンの過去の全ての作品を学習させた上で、未完の部分を作曲させるというものだった。その後どうなったかは分からない。

 もし、完成しているのなら、前述の研究者が手がけた「人間版」と「AI版」を聴き比べてみたい。だが、19年当時から現在に至る間に急速に進化した「生成AI」を使えば、それらよりずっと精度の高い「第10番」ができるのではないか。それどころか交響曲「第11番」「第12番」なんてのも―。

 スケッチなど「作者のオリジナルな部分」がなくとも、今のAIならば可能だろう。このままいけば、食品の原材料名にある「大豆(遺伝子組み換えでない)」のように「作曲○○(生成AIでない)」なんて時代が来るのではないか。想像したくないが…。

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