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うわさの売り買い

2023年6月7日
 英国の私立探偵シャーロック・ホームズのシリーズで、他人の秘密の公開をちらつかせて金品をゆする男の話がある。「恐喝王」ことミルバートン。冷酷、狡猾で、相手が交渉に応じなければ情報を公開する。

 地位が高い人や有名人のゴシップが関心を誘うのは洋の東西を問わないようで、池波正太郎原作「仕掛人・藤枝梅安」漫画版にはうわさの売り買いを生業とする藤岡屋という男が登場。どちらも架空の設定だが、妙に現実感があるのは昨今にぎわせた事件のせいか。

 インターネットの動画投稿サイトで芸能人らを脅迫したなどとして、国際手配されていた元参院議員のガーシー(本名・東谷義和)容疑者が暴力行為法違反などの疑いで逮捕された。動画では有名人の秘密を暴露するなどとうたって、かなりの広告収入を得ていたという。

 それなりに真実の情報を売り買いした恐喝王や藤岡屋とは決定的に違う。真偽不明な情報もいったんネットに載ると爆発的に拡散する。「ゴシップをネット上にさらす」の一言ですさまじい脅しになることは、近年のネットによる風評被害を見れば実感できるだろう。もはや真実か否かは二の次だ。

 その威力を利用して被害者を脅そうとしたのなら相当悪質だ。今後こういう稼業が続かないように、ネットの情報を読み解く能力も必要だろう。うわさにひかれるのは人のさが。でも仲間内で興じるくらいにとどめた方が人間の品性を保つにはいいと思うが。

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