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卵の適正価格

2023年6月17日
 オランダの画家フェルメールは日本でも圧倒的人気を誇る。それだけにさまざまな観点から研究がなされてきた。食との関わりから論じて注目を浴びたのはキュレーターの林綾野さん。例えば代表作の一つ。

 17世紀半ばの「牛乳を注ぐ女」に描かれた女性が今から作ろうとしているのはパン・プディングだそうだ。パンを牛乳と卵に浸してオーブンで焼いた物で、一般的な食べ物だった。ところが画中にあるのは固そうなパンと牛乳のみ。肝心要の卵が登場していない。

 牛乳の注がれた壺(つぼ)に卵が入っていると推測されている。フェルメールと同じく庶民の暮らしを描いたフランスの画家シャルダンになると、卵をくっきりと登場させている。こちらのタイトルは「病後の食事」。昔から卵が滋養強壮の薬として使われてきたことがうかがえる。

 そういえば、運動会の朝に「精が付く」と無理やり生卵を飲まされたのは昭和の食卓ならではかもしれない。子どもを苦しめていたこの悪弊、今は消失していてほしいと願うがどうだろうか。いずれにせよ卵は身近で安価。ずっと庶民の味方だった。その「物価の優等生」の価格が一向に下がらない。

 一円でも安ければ家計は助かるものの、逆にこれまでの安価に甘えすぎていたのではとの思いもふとにじむ。丁寧なものづくりには適正価格がある。消費者が買いたたいて万事オーケーではないはずだ。卵1パックの裏側にある生産現場の安定が欠かせない。

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