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「インスラ」を武器に

2023年6月19日
 「インスラ」と聞いてピンときた方は、野球通だろう。「インコースへのスライダー」という意味。大まかに言えば、右投手が右打者に対し投げた場合、内角で来た球が外側のストライクゾーンへと曲がる。

 この「インスラ」を武器に球団で初めての、そして20世紀最後の200勝投手となったのが広島カープの北別府学さんだった。都城農高3年のとき、春の九州高校野球で大会史上初となる完全試合を達成。ドラフト1位指名を受けて1976年に広島へ入団した。

 当時キャッチャーだった達川光男さんが「ボールの縫い目一つで勝負する投手」と評したほど秀でたコントロールは「精密機械」の異名を取った。「インスラ」が武器とはいえ、北別府さんがこだわったのは、アウトローのストレート(外角低めへのストレート)だった。

 他の投手が練習で「最後の球」がストライクにさえなれば終わりにするところ、北別府さんはアウトローに決まるまでやめなかった。「そこまでこだわるのは自分が不安だから。練習でできないことが試合中、例えば2―3のフルカウントからできるわけがない」と(二宮清純「勝ち方の美学」)。

 野球殿堂入りした2012年、母校の都城農業高で講演し「今後は野球を通じて世の中に恩返しできれば」と語っていた北別府さん。その志は道半ばだった。享年65。「いつかカープの監督に」と期待していたのは宮崎、広島両県民だけではなかっただろう。

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