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AIに負けない

2023年6月28日
 おととい終了したが、宮崎市で開かれた画家で県美術協会会長・山本祐嗣さんの個展が刺激的だった。桜やリンゴなど描くモチーフはこれまで通りだが、確かな存在感と不安が同居する気分が深化していた。

 素人なので感じたままだが、毎年新しい画境を求めて動き続ける姿勢は「新世界へ」というテーマにふさわしく思えた。山本さんといえば、昨年に小欄でも触れたが活動の一環で戦乱前のウクライナを訪問、その後も現地の子供らと絵画交流を行ったことがある。

 戦乱が収まらない中、もしかしたら個展で体験に触れているかなと思ったが、皆無だった。人々の耳目を集めるからといって、直接芸術に関係ないことを宣伝に利用しようという魂胆はみじんもない。すがすがしいほどの芸術家精神で、こちらの低俗な推測が恥ずかしい。

 とはいえ、優れた創作は時代の空気を映す。強風に乱されるヒマワリ畑、金地を切り裂くような鋭い線、さざ波が立つ白い壁。平穏な状況も、いつ何かから脅かされるか分からない。外から侵略してくることもあれば、内側に眠っているかもしれない。美しい絵の中にそんな不穏な空気感も感じた。

 山本さんが熱く語った。「近頃はAI(人工知能)で音楽や絵ができるとか。でも僕の頭の中はもっとぐちゃぐちゃしている。絶対AIなんかにはまねされない」。創作に携わる人はみな同じ誇りを持つだろう。人間の可能性をもっと信じたい気分にさせた。

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