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気象庁のせい?

2023年7月8日
 〈真夏日のひかり澄み果てし浅茅原(あさじはら)にそよぎの音のきこえけるかも〉。斎藤茂吉の歌である。「浅茅原」とはイネ科の多年草であるチガヤがまばらに生えている原っぱ。雑草が生え、荒れ果てた野原を指す。

 この歌の情景を「真夏の太陽の照りきわまったもと、耳を澄ませば葉のそよぐ音が聞こえる」と解説した上で「この世の景色ではないかのように、静寂のきわみの世界である」と評したのは文芸評論家の山本健吉だった(角川ソフィア文庫「ことばの歳時記」)。

 山本はこの短歌に出てくる「真夏日」は全く嫌な連想を伴わないとした上で「それを不快感を伴うものにしてしまったのが、気象庁の取り決めである」と断じる。どうやら気象庁が気温30度を超える日を「真夏日」と決めたことに対して、ひどくおかんむりのようである。

 半世紀以上も昔の随想とはいえ、気象庁からすれば、とんだ言いがかりだろう。「夏日」「真夏日」「猛暑日」と名前を付けることで「最高気温が何度」というより暑さのイメージがしやすい。茂吉がこの歌を詠んだ時代とは違い、温暖化で夏の暑さが厳しくなっている現代においてはなおさらだ。

 本県では5月16日に美郷町で32・1度となって以来、もう何度も真夏日となっている。一方、きょう以降、また九州北部などでは警報級の大雨になる可能性があるという。雨が降れば災害に、降らなければ熱中症の対策に気を使う。思えば難儀な時季である。

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