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からむし

2023年7月16日
 江戸時代に滝沢馬琴が書いた「南総里見八犬伝」は明治の世になってもよく読まれた小説だが、その中でも特に有名な場面が「芳流閣(ほうりゅうかく)の決闘」だ。三層のやぐらの屋根の上で、2人の勇者が激しく戦い合う。

 途中、こんな説明がある。「時は六月(みなづき)二十一日 昨日も今日もからむしの、ほてりを渡る敷瓦は、凸凹(うねり)隙なく、波濤(なみ)に似て」。日付は陰暦だから、ほぼ今頃だ。「からむし」とはなんだろう。「日本語大辞典」で調べたら「雨が降らないで蒸し暑いこと」とある。

 つまり強烈な太陽の照りつけで瓦が熱く、ほてっていたことを描写している。今はほとんど聞かない「からむし」だが、暑さがよく伝わってくる。今も夏の日射にさらされた車のボディは触れないほど熱いが、瓦も同様だろう。まさに2人の熱い闘志を表しているようだ。

 このところまとまった雨が降らず「からむし」のような暑さが続く県内だ。最高気温が30度以上の真夏日、35度以上の猛暑日も珍しくない。熱中症で搬送される人が続出している。週間天気予報を見ると今後しばらくは水気の少ないマークが続いており、のどが渇く前に水分を取るなど用心したい。

 「からむし」は料理の世界では生きている用語で、水を使わず蒸す調理法。熱い道路とビルの間を歩いていると、自分がそんな風に蒸されているように汗が出る。ちなみに八犬伝の2人は川に浮かぶ小舟に転落。作者は水分補給の大事さを知っていたのかな。

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