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音楽祭の生みの親

2023年8月5日
 「なに見てはねる―」の童謡ではない。かつて森進一さんが歌った「うさぎ」という曲がある。歌詞はこうだ。学校でうさぎの飼育係をしていた子どもが、島を離れる直前に餌をやり忘れていたのを思い出す。

 その子どもは、餌をやるため学校にとって返したため、船に乗り遅れる。しかし、母親は怒るどころか優しくほめて―。8分にも及ぶこの大曲をカラオケで好んで歌ったのが県立芸術劇場(現・メディキット県民文化センター)の初代館長・青木賢児さんである。

 あまりにも長い曲のために「まだ終わらないの?」と回りからヤジが絶えなかったと、1996年に本紙で連載した自分史「回想の早送り」に書いていた。その人柄をしのぶとき、この曲を青木さんがお気に入りだったというのは、とても胸に落ちるエピソードに思える。

 かつて世界的指揮者のズービン・メータさんをして「音響がすばらしい完璧なホール」と言わしめたメディキット県民文化センター。しかし、いくら施設がよくてもそれに見合う”ソフト”がなければ十分ではない。青木さんは「宮崎国際音楽祭」という、施設にふさわしいイベントを創設し育てた。

 記念すべき第1回に、かの「バイオリンの神様」アイザック・スターンさんを迎えることができたのは、青木さんがいればこそだった。今や国内外に誇れるイベントとして揺るぎないものとなった音楽祭。”生みの親”の思いはこれからも受け継がれていこう。

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