た・す・かっ・た…
2023年8月15日

ちょっと前に「残暑」が出てくる俳句を見ていたら、こんな作品があった。〈秋暑し敗れて生る安堵(あんど)感〉(阿部寒林)。「八月十五日」の前書きが付いていた。この句を目にしたとき、2代目水戸黄門役などで人気を博した俳優の西村晃(こう)さんのことを思い出した。
徳島海軍航空隊の特攻隊員だった西村さんは出撃命令を待つ中で8月15日を迎えている。戦争が終わったことを知ったときの心境を昔、テレビで語っていた。「た・す・かっ・た」―。「助かった」ではなく一音一音かみしめるように静かに口にしたのが印象に残っている。
毎年この時期、地面に突っ伏し、もしくは直立不動で「玉音放送」に聴き入る人々の映像を目にする。どんな思いが去来していたのか。驚きとショック、虚脱感、これからどうなるのかという不安と恐怖。人それぞれだろうが、先の句の作者や西村さんのように安堵感を覚えた人もいたことだろう。
当時の人々が抱いたであろう、こうしたさまざまな思い。それらは「戦争を繰り返すまい」という強い決意へと昇華したはずだったが…。「新しい戦前」なる言葉が、説得力をもって受け止められ話題となる。あれから78年後の日本はそんな時代を迎えている。