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短歌の中の防護服

2023年8月19日
 〈世の中の風当たりにも耐えるよう防護ガウンを今日も着込んで〉〈朝飯は食べてきたんか防護服三時過ぎまで脱げへんからな〉。読み返すと、当時の抑圧と緊張の日々がよみがえってきて息が詰まりそうだ。

 この歌集を、ちょうど2年前の今ごろ小欄で紹介した。大阪府内の救命救急センターに勤務する救急科専門医の犬養楓さんの「前線」(書肆侃侃房(しょしかんかんぼう)刊)だ。新型コロナウイルスのことを初めて知ったときに始まり、その後の医療現場での過酷な日々を詠んでいる。

 コロナに最近感染した知人が病院で渡された厚生労働省から感染者に向けた「注意書き」を見せてもらった。「ウイルスの排出期間から外出を控えることが推奨される期間は発症後5日間です。マスク着用など感染対策も含めて御自身で御判断下さい」と書かれてあった。

 「5類移行」から約3カ月。その文面には、感染が判明しただけで緊張が走った当時の面影はもはやない。だが、コロナが楽観できるようになったわけでは決してない。以前ほど報じられなくなっただけで、医療現場では今また陽性が増え、スタッフの人繰りに苦労しているところもあると聞いた。

 冒頭では防護服を詠んだ歌を紹介したが、くだんの知人の話では、病院で検査をした際には自身は車の中で、猛暑にもかかわらず全身防護服の看護師が出てきて対応してくれたという。歌集のタイトル通り「前線」で奮闘する医療関係者に改めて感謝したい。

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