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理解すべきはどっち?

2023年8月24日
 「借用、外泊、敗北、欠勤。この四つの単語の中で共通点のないものは?」。犯人が、コロンボ警部の頭の回転の速さを試そうとして問いかける。一瞬考えた後に、コロンボが答える。「『敗北』でしょう」

 「敗北」以外の三つには「無断」を上に付けられるというのが理由。「刑事コロンボ」のワンシーンだ。これを踏まえて同じような問題を。「準備、理解、納得、説明。共通点のないものは?」。答えは「納得」。残りの3つには、下に「不足」を付けられる―。

 言語学者の金田一秀穂さんが近著「あなたの日本語だいじょうぶ?」の中で「理解していただけるよう努めたい」など“偉い人”が安易に使う「理解」という言葉に苦言を呈している。「反対することは理解していないことではない。理解しているからこそ納得しないのだ」と。

 東京電力福島第1原発の処理水海洋放出に関し、岸田文雄首相をはじめ政府関係者から何度もこの「理解」という言葉が出た。金田一さんの指摘に照らせば、なるほど漁業関係者たちは理解していないのではない。海洋放出がもたらすかもしれない“被害”を理解していればこそ反対しているのだろう。

 「理解」を辞書で引いても、やはり「納得」と同義語ではない。「理解」は「物事の道理をさとり知ること」が1番目の意味だが、2番目の意味として「人の気持ちや立場がよく分かること」とある。今後、理解が必要なのは政府と東電だろう。特に2番目の意味の。

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