ホーム くろしお

無償にほど遠い義務

2023年8月27日
 ユニークな試みだ。日南市の公立中学校9校が今春から統一した新制服を導入した。ずらり同じ制服になったことで、市民も校区の壁を越えて「わが街の子どもたち」という意識が強くなったのではないか。

 スカート、スラックスやキュロットパンツは性別を問わず選択可。多様な性へ配慮するためだが、統一制服は保護者の経済的な負担を減らす目的もあるという。製造コストを下げられるだけでなく、市内全域で融通し合えるので”お下がり”も広く流通しそうだ。

 憲法第26条第2項は「義務教育はこれを無償とする」と規定する。だが無償の範囲は授業料に限定されてきた。文部科学省の調査では、2021年の年間給食費は公立小で平均約5万4千円、公立中で約6万1千円。家庭が支出した制服代、教材費や修学旅行費も大きい。

 その費用は公立小で約6万6千円、公立中で約13万2千円に上る。つまり中学では合計20万円近い支出だ。現実的には「無償」にはほど遠い。親の所得による教育格差が広がる中、県内の学校現場でも「修学旅行をあきらめた」「卒業アルバムを購入できない」といった訴えに教職員が頭を悩ませる。

 政府は少子化対策に力を入れる。むろん本気で取り組んでほしい課題だが、教育にお金がかかりすぎるのも要因ではないか。義務教育の機会はフェアに提供されているか疑問に思う。義務教育の無償範囲は現状のままでいいのか。もっと真剣に議論していい。

このほかの記事

過去の記事(月別)