ホーム くろしお

キング牧師の理想

2023年8月30日
 この夏の気温は「異常だった」と気象庁が見解を示すほど高かったが、1963年の米国の夏も人々の熱気でかつてなく暑かったに違いにない。キング牧師自身が演説の中で「この酷暑の夏」と語っている。

 私には夢がある―。米公民権運動の黒人指導者マーチン・ルーサー・キング牧師が同年の8月28日にワシントン大行進で行った歴史的演説から60周年を祝う行事が首都ワシントンであったと聞き、久しぶりに全文を読み返した。牧師は最後の登壇者だったという。

 初めて触れたのは成人してから、友人の高校時代の英語教科書だった。最初はよく理解できなかったが、付属のカセットテープで音声を聞いて会場を包む熱情と興奮に打たれた。そして何度も繰り返される「私には夢がある」から理想の実現に向けた強い意欲が感じられた。

 キング牧師は奴隷解放宣言から100年を経ても「黒人の生活は依然として人種隔離の手かせと人種差別の鎖によってしばられている」として、すべての社会階層の人々が人種や肌の色、出身に関係なく平等であるべきと訴えた。牧師の演説で公民権運動は頂点に達し、64年に公民権法が成立した。

 しかし牧師がその後暗殺されたことが象徴するように、人種間の差別はくすぶり続けている。法律の制定だけでは解消されない差別意識。むろん日本においても性、障害、宗教などさまざまな面で差別は顔を出す。牧師が説いた理想にいま一度耳を傾けたい。

このほかの記事

過去の記事(月別)