悪意はなくとも
2023年9月4日
一般に「言ってはいけないこと」をつい口走ってしまうのを、十把ひとからげに失言という。しかし厳密にいえば、考えなしのうっかり発言は失言だが、確信的な差別発言などは暴言の類いと言えるだろう。
もちろん悪意がなければ問題ないというわけではない。特に政治家に関してはそうだ。96年前の1927年、関東大震災に伴う震災手形を処理しやすくする法案をめぐって審議していた衆議院の予算総会。そこで片岡直温(なおはる)蔵相がとんでもない失言をしてしまった。
野党への答弁の中で「きょうの正午ごろ、東京渡辺銀行が破綻しました」と。実際、このとき東京渡辺銀行は窮地にあったが、何とか持ち直したところだった。だが、この発言で休業に追い込まれ、ひいてはこれが金融恐慌を引き起こす(河合敦著「偉人しくじり図鑑」)。
政治家の発言の重さを物語る史実である。さて、この人は自身の言葉の重みをどこまで自覚していたか。東京電力福島第1原発処理水の海洋放出に伴う風評対策に国が注力する中、処理水を「汚染水」と言ってしまった野村哲郎農相。極めてデリケートな問題における、あまりにうかつな言い間違えだ。
くだんの片岡蔵相の不用意な”たったひと言”が引き起こしたのは、実は金融危機だけではなかった。内閣の崩壊、さらには政権交代まで招き、その結果日本の経済・外交政策までも変えてしまった。現在、政府は農相発言の火消しに懸命だが、その行方は―。
もちろん悪意がなければ問題ないというわけではない。特に政治家に関してはそうだ。96年前の1927年、関東大震災に伴う震災手形を処理しやすくする法案をめぐって審議していた衆議院の予算総会。そこで片岡直温(なおはる)蔵相がとんでもない失言をしてしまった。
野党への答弁の中で「きょうの正午ごろ、東京渡辺銀行が破綻しました」と。実際、このとき東京渡辺銀行は窮地にあったが、何とか持ち直したところだった。だが、この発言で休業に追い込まれ、ひいてはこれが金融恐慌を引き起こす(河合敦著「偉人しくじり図鑑」)。
政治家の発言の重さを物語る史実である。さて、この人は自身の言葉の重みをどこまで自覚していたか。東京電力福島第1原発処理水の海洋放出に伴う風評対策に国が注力する中、処理水を「汚染水」と言ってしまった野村哲郎農相。極めてデリケートな問題における、あまりにうかつな言い間違えだ。
くだんの片岡蔵相の不用意な”たったひと言”が引き起こしたのは、実は金融危機だけではなかった。内閣の崩壊、さらには政権交代まで招き、その結果日本の経済・外交政策までも変えてしまった。現在、政府は農相発言の火消しに懸命だが、その行方は―。