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臥待月の出るまでは

2023年10月3日
  もう眠ろう もう眠ってしまおう 臥待月の出るまでは―。吉田拓郎さんの1972年の曲「祭りのあと」。文字通り、祭りの後の寂しさを歌った曲だ。イントロのハーモニカがその哀愁をよりかきたてる。

 冒頭の歌詞は2番のサビの部分である。ここに出てくる臥待月は「ふしまちづき」と読む。狭義で旧暦8月19日の月で、今年はきょう10月3日。十五夜に続く旧暦16日の月が、十六夜(いざよい)の月。月の出が遅くなって、いざよう(ためらっている)ように見えるからだ。

 その翌日の十七夜が、立って待つうちに月が出るという意味の「立待月(たちまちづき)」。その後、座って待つ「居待月(いまちづき)」、座って待ってもなかなか出ないので寝て待つ「寝待月(ねまちづき)」、夜更けまで粘って待つ「更待月(ふけまちづき)」と続く。この中の「寝待月」の別名が、拓郎さんの歌にある臥待月だ。

 「もう眠ろう…臥待月の出るまでは」と歌っているところから、歌の主は月が出たら目を覚まし、物思いにふけって眺めたのだろうか。余談だが江戸時代、飛脚のことを「十七屋」と呼んだ。十七屋は十七夜、つまり「立待月」に通じることから「たちまちつき=たちまち着く」ということらしい。

 天気がよければ、先日の中秋の名月の余韻を持って、きょうの臥待月、あすの更待月を愛(め)でるのもいいだろう。再び各国が競って月を目指す時代になっても、月ひとつにこれだけたくさんの名前を生み出した古人(いにしえびと)の感性は大事にしていきたい。

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