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幾山河の里

2023年10月11日
 日向市東郷町出身の歌人若山牧水の代表歌を一つ挙げよと言われたら、詳しい人ほど悩むだろう。ただ一般的には「幾山河越えさり行かば寂しさの終(は)てなむ国ぞ今日も旅ゆく」を選ぶ人が多いのではないか。

 国民的な名歌だ。早稲田大学生だった牧水がこの歌の構想をまとめたのが1907(明治40)年7月。東郷へ帰省する際に岡山県哲西町(現・新見市)を通った時のことだ。広島県東城町(現・庄原市)・二本松峠の宿で手紙にしたためたという。峠に歌碑がある。

 県境をはさむ両町は牧水顕彰が盛んで、2001年11月には両町などが主催して全国牧水サミットを開催。全国から集まった歌人や研究者らが講演、フォーラムなどで交流を深めた。取材で訪れたが、夜の交流会では朗詠も飛び出すなど、牧水の愛されっぷりに感激した。

 JR西日本が利用者の少ない芸備線の岡山、広島両県にまたがる区間について、沿線自治体と存廃を話し合う「再構築協議会」を設置するよう国に要請したというニュースに心が騒いだ。対象区間の68・5キロは、まさに両町を通る「幾山河」の聖地だ。同協議会制度は1日に運用が始まったばかり。

 今後は国が沿線自治体に意見を聴き、設置の是非等を判断する。牧水のゆかりだけで存続を、とは言えないが名歌の古里に人々の関心がもっと集まればと願っている。人口減少、鉄路の利用客低迷は地方共通の課題。関心を持って協議会の行方を見守りたい。

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