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画家を母性で包んだ妻

2023年11月22日
 宮崎市出身で前衛芸術の先駆者として知られる瑛九(1911~60年)。その業績は近年国内外で再評価が高まっているが、夫人で2018年12月に102歳で亡くなった都さん(同市出身)の功績も大きい。

 本人は絵や評論など創作活動をしたわけではない。妻の役目に徹していたので、あまり知られていないのは仕方がないだろう。だが昨年、都さんの生涯に焦点を当てた「いつもパトリーノと呼ばれました」(荒平太和著)が出版され、存在感の大きさに注目した。

 瑛九を大きな母性愛で包み、その創作意欲を刺激した都さん。瑛九没後は作品を整理し散逸を防止。遺作展の計画と実施に努めた。2人が出会ったのは1946年1月、同市の瑛九の家であった文化講座。都さんは「瑛九と初めて会ったとき、変な人だと思った」という。

 瑛九は4歳の時に失った母の面影を都さんに見る。実際にそっくりで、尽きない母性愛を求めていたのかもしれない。結婚後に上京。都さんは一定の評価を得つつも経済的に困窮する瑛九を支え、彼を慕って集まる若い芸術家たちの面倒を見た。瑛九は都さんをパトリーノ(お母さん)と呼んでいた。

 都さんが与えた母性は、瑛九作品を鑑賞する時に必要なヒントになるのではないか。今日は日付の語呂から「いい夫婦の日」。ふさわしい話題か自信はないが、夫婦が仲むつまじいだけでなく、精神的に影響し高め合って生きた意味では一つの理想型に映る。

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